コラム
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2021/5/18
1771    褒めること

日頃からお世話になっている教育者の方から、自らが関わった教育の話を聞かせてくれました。

Aさんが教育委員会として中学校の授業の視察に出向いた時のことです。Aさんは当日の全ての授業を見て現場の状況を見たそうです。全ての授業を終えた後、校長室で懇談の時間になりました。

それぞれの授業の感想を伝えて意見交換を行っている時、「校長先生、お願いがあります。今日、授業を拝見させてもらいました。その中で音楽の〇〇先生をここに呼んでもらえませんか」と依頼したのです。

早速、校長先生が、職員室にいたその音楽の先生を懇談の場に呼んだのです。Aさんは音楽の先生に伝えました。

「先生の授業、私が今まで見たこともない授業でした。とても感動しました。

授業ではピアノ演奏に続いて生徒に歌ってもらう、または楽器の演奏をしてもらうことが通常だと思っていたのですが、先生は黒板に歌詞を書いて、生徒に読んでもらっていました。しかも国語の授業かと思うぐらい、歌詞の意味、解釈を丁寧に説明して、生徒にその情景を思い浮かべてもらう時間を取っていました。その後、ピアノに合わせて歌の指導をしていましたね。

私は生徒の表情、歌う姿勢を拝見していましたが、とても表情豊かに、そして身体を揺さぶるようにして歌っていました。これは単に伴奏に合わせて歌うのではなく、歌詞の意味を理解して情景を思い浮かべて歌っていたからだと思います。歌は音符に沿って上手に歌うことが目的ではありません。歌、歌詞に込められた意味を知って、自分の心で情景を思い浮かべて歌うことが心から歌うことだと思います。先生の授業は生徒の心に深く入って指導していたように思います。

先生の行った心のこもった授業、生徒に音楽の楽しさを伝えようとする進め方に感動しました。これからも頑張ってください」というものです。

音楽の先生は、最初は校長室に呼ばれて不安そうな顔をしていましたが、褒められたことによって笑顔が弾けたそうです。その後、自分の授業の進め方に自信を持つようになり、「更に素晴らしい授業になりましたよ」と校長先生はAさんに伝えたのです。

褒めることによって先生に自信を持たせたことは、生徒にとっても今まで以上に質の高い授業が提供できたことになります。音楽の先生にとって、教育委員会と校長先生から褒められたことを嬉しく思い、自信を持って授業に挑めることにつながったのです。

頑張っている人との接し方や、褒めることで人は自信を持つこと。そして自信を持って人に教えることで、教えられる側の人の理解が深まることが分かる事例です。

批判は相手を委縮させ心を不安にさせます。褒めることによって、相手に自信を持たせることができます。褒めるばかりで偏ってはいけませんが、褒めることで自信を持ってもらうことが、その後に良い影響を与えることになると思います。