コラム
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2021/5/17
1770    恩と徳

友人の若い経営者に苦労話があったことを、その経営者の友人から聞かせてもらいました。

彼が小学校の時、父親の会社が倒産しました。ある日、家に手形の支払を求めて金融業者が来たのです。母親はもちろん、幼い彼も知らなかったのですが、手形は2億円を超える金額でした。とても支払える金額ではなかったので自宅を売却、貯金も全て支払いに充当したのです。

その時、彼は「この分は僕が取り返すから」と母親に話したそうです。それから約30年近くが経過しています。

彼は会社を設立して売り上げを伸ばしています。今ではその金額であれば支払える規模の会社になっています。それでも母親のため毎月、手形の残金の返済を続けているのです。残金の一括返済をしないのは、あの時の気持ちを忘れないためです。

また会社を興した時、運営するのに苦しい時期がありました。どうしても期日までに返済しなければならないお金が300万円ありました。その時、同じオフィスビルに入居していたIT会社の社長が、彼の困っている顔を見て話を聞いてくれたのです。

その社長は300万円を彼に「これ返さなくてもいいから。自由に使ってくれたらよい」と渡してくれたのです。そのお金のお陰で会社は立ち直り、その後は順調に業績を上げて今に至っているのです。

その後、彼の会社は成長を続け、支援してくれたIT会社は業績不振に陥ったのです。IT会社の社長は何も言わなかったのですが、彼は社長のために毎月100万円ずつ支援しているのです。もう余裕であの時、支援してもらった300万円を超える金額を支援しています。それにも関わらず毎月、支援し続けているのです。

彼に「もう300万円はもちろんのこと、それ以上のお金を支援しているようですが、もう充分恩返しをしたのではないですか」と尋ねました。

彼は「そんなことはありません。あの時の300万円がなければ今の僕も、この会社もなかったのですから。あの時の恩返しは一生続けます」と話したのです。

更に驚くことに、そのIT会社の財務状況が悪化した時に資金提供をしていたのです。しかもIT会社の社長はそのまま社長で、彼は「ずっと社長を続けてください」と立場が逆転した今も、社長へのご恩を忘れないで支援しているのです。

この話を聞くだけで、彼は心から信頼できる人物であることが分かります。人とのつきあい方によって信頼できるかどうか分かります。このように彼の会社が発展を続けているのは、徳があるからです。人にとって大切な徳は人と会うことで生まれるものです。徳がある人は人と会っていますし受けたご恩を忘れないばかりか、何倍にもしてお返ししています。それが徳につながっているのです。

徳は人が運んできてくれる。そんな行動をしている彼は若いけれど立派な経営者だと思います。

そんな彼が「片桐さんには必ず恩返しをします」と笑顔で話してくれています。

何も彼に役立つことをしていないと思うのですが、徳のある人物からのその言葉を嬉しく思っています。