毎月開催している令和会に出席、今月は講師を務めました。テーマは「トランプ大統領の相互関税措置について」で、講義で使用したレジュメは次の通りです。
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導入の背景と経緯
(1)2025年4月初旬、各国との貿易不均衡是正を掲げて「相互関税」を打ち出す
・一律10%の基本関税を全ての国・地域からの輸入品に上乗せし、各国の状況に応じてさらに追加関税(最大で+50%程度)を課す方針
(2)インフレの懸念
・米国株式市場ではわずか数日で時価総額6兆ドル規模の下落が記録されるなど(S&P500指数の4日間の下げ幅が過去最大)、景気の先行きやインフレへの不安が広がった。
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90日間猶予措置の内容と対象
(1)追加関税措置の一部を90日間停止する猶予措置を急遽打ち出す
(2)トランプ政権は中国を猶予の対象から外し、逆に関税率を125%へ引き上げて即時適用
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90日間猶予措置の導入目的
(1)各国との交渉時間を確保する外交的意図
・一時的な譲歩(関税猶予)によって各国から最大限の譲歩を引き出す戦略
(2)市場・企業への悪影響を抑える経済的意図
・急激な関税引き上げによる景気悪化や市場混乱を和らげる
・ゴールドマン・サックスは米国経済が近い将来リセッション(景気後退)に陥る確率についての予測を、従来の65%から45%へ引き下げ
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企業や国際貿易への影響
(1)企業は90日間のうちにサプライチェーンの再構築や在庫確保、価格戦略の見直しを検討する余地を得た。
(2)90日間の猶予措置は、米国と主要貿易相手国との関係に一時的な緊張緩和をもたらした。
(3)90日後に関税が本格発動すれば、企業活動や世界貿易に再び大きな混乱が生じるリスクが生じる。
(4)米中デカップリング(経済の分断)の流れ
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リカードの比較優位論
(1)事例
●A国とB国とも労働者200人で、小麦と自動車を生産している。
・小麦
A国 労働者100人で生産量が1000トン
B国 労働者100人で生産量が900トン 合計1900トン
・自動車
A国 労働者100人で生産量が500台
B国 労働者100人で生産量が300台 合計800台
●A国とB国とも得意分野に専念し他のものは相手国から輸入する。
・A国
200人の労働者のうち、生産性の高い自動車に180人、小麦に20人注ぎ込みことで、自動車900台、小麦200トンを生産できる。
・B国
相対的に優位な小麦の生産に特化。労働者200人を小麦の生産に注ぎ込み、小麦1800トンを生産する。
A国とB国の生産量を合計は自動車900台、小麦2000トン。
・1948年にGATT(関税および貿易に関する一般協定)が発足。
・1995年、WTO(世界貿易機関)に発展。
「関税がもたらすことは、国の経済を縮小させることになる。これにより、現在輸出している商品、つまり生産が比較的得意な商品の販売が減り、生産がそれほど得意でない商品の販売が増えることになる。その影響は経済の効率を低下させる」。
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トランプ大統領の関税引き上げに関する矛盾点
・トランプ大統領の主張は次の@からBです。
@外国企業が関税コストを吸収するため、米国内で物価は上昇しない。
A米国の消費が、輸入製品から国内製品に大きくシフトする。
B巨額の関税収入が得られる。
これに対してクルーグマン教授の主張は次の通りです。
@の通りなら、外国製品の価格は従来通り据え置かれるため、米消費者が関税で値上がりした外国製品を避け米国製品の購入を増やす効果は見込めない。
Aの通りなら、外国製品が米国内で売れなくなり輸入が減る。
外国製品が米国内で売れなくなるのならば、Bの関税収入は得られない。
米国が貿易赤字を抱えるべきではないと考えているだけでなく、どの国とも赤字であってはならないと信じている点です。すべての国と貿易収支を均衡させるべきだという考え方は完全にナンセンスです。
たとえば、人と人との関係に置き換えてみるとわかりやすいです。
誰かのために働いている場合、その相手からお金をもらっているので、その人との間では黒字になります。でも、その人から買い物はしていないことが多いでしょう。一方で、スーパーマーケットから商品を買うけれど、自分はそのスーパーマーケットに何かを売っているわけではありません。つまりスーパーマーケットとの関係は赤字になります。これと同じことが、国と国との間でも起きているのです。そのため貿易相手ごとに均衡を取ろうとする発想は、まったくもって無理があります。
以上