「今後のエネルギー政策の動向について」の講義を聴きました。講師は政策アナリストの石川和男さんで、分かりやすく説明してくれました。
1.わが国の2023年の貿易収支は、主な輸出品目である輸送用機器約20兆円と、一般機械約9兆円の大半を鉱物性燃料の輸入約26兆円で消えている計算になっています。

つまり鉱物性燃料の大半を輸入に依存する経済構造は、需給ひっ迫による価格上昇や特定の国に輸入を依存するリスクを抱えていますし、これが貿易収支赤字の大きな原因になっています。これは二度のオイルショック、リーマンショック、コロナ禍の社会の4度のエネルギー価格上昇時に顕在化しているものですが脱出できていません。
この経済構造を少しでも緩和しリスク軽減を図るために、エネルギー源の多様化が必要です。
2.社会はDX進展に伴い電力需要が増えていくことになります。現時点でもデータセンターや半導体工場の建設により電化シフトが図られていますが、これからは生成AIの利用拡大により、更に電力需要は増える見通しです。この生成AIは電力を大量に消費するので、現在のわがエネルギー構造では不足すること、価格が上昇することは必至です。しかも世界的に化石燃料に頼らないようエネルギーの転換を図ろうとしている中、現状ではとても追いつくことはできませんし、目標数値は追うための施策は絵空事になっています。
結局は脱炭素と大規模な電源開発が必要となりますが、基本的に相反関係にあるので、同時達成は困難です。
3.二酸化炭素排出量の問題です。世界最大の排出国は中国、続いてアメリカで、日本の排出量は2021年で3.0パーセント、2030年予想で2.2パーセントになっています。
日本の部門別二酸化炭素排出量は産業部門で大きく低減させていますが、運輸部門や業務その他部門、家庭部門などは横ばいで推移しています。この数字の意味は、事務所や家庭での脱炭素は限りなく低減しているので、これ以上、低減させることは難しく、逆に産業部門の排出量が低減しているのは、産業を中国に移転させていることの証拠です。
わが国の企業が工場を中国に移転させたことから、国内の排出量は低減に向かい、逆に中国の排出量は増えているのです。これはゼロサムの関係にあり、全体として低減できているものではなく、単に排出量を中国に振り替えているだけのことになります。
中国経済が成長し、日本経済が停滞していることはこれに関係しています。産業部門の中国移転が、国内の仕事を減少させているので経済が良くならなかったのです。排出量の低減を呪文のように唱えると、経済に影響を与えることになります。これは私たちが考えるべき問題です。
4.エネルギー問題を考える期間です。排出削減の目標は2050年だとか50年先だとかの議論がありますが、そんな時代に私たちは生きていますか。恐らく多くの人はその時代にはいないですよ。私たちが物事を考えるとき「50年先、100年先の社会を考える」ということがありますが、そんな先の社会はどうなっていくのか分からないのです。予測できない社会のあるべき姿を議論しても仕方ないことです。もちろん無駄ではなく、その先の社会のために現代できる限りの土台を築くことは必要ですが、50年先も持つような土台を築くことはできません。
ですから、せいぜい10年先から20年先の社会を考えて行動することを目指すべきです。
その先の社会は次の世代を信じて委ねる以外にありません。現在、採掘可能な石油と天然ガスはあと50年、石炭は120年と推測されています。この先、新しい油田が見つかると思いますが、50年先には化石燃料がなくなるとすれば、石炭の利用と石炭発電の技術は次の世代に継承すべきことです。
5.戦後人口が増えた主な理由は次のような要因です。
- 食糧事情が良くなったこと。
- 医療アクセスが良くなったこと。
- 下水道が普及したこと。
食料と医療、公衆衛生が向上したことから人口が増えました。今後、これに匹敵する要因は見当たらないので、やはり人口は減少していくことになります。
それに伴いエネルギー需要は減少するかと言えば間違いで、先に記述したようにデータセンターや半導体工場、電気自動車の普及、そして生成AIの活用などの電化シフトによって電力需要は増えていきます。社会は今後進展する電化シフトに備える必要があります。