活動報告・レポート
2025年2月3日(月)
県庁OBの話
県庁OBの話

某事務所を訪ねたところ、県庁OBの方とお会いしたので懇談の時間の中で経験談を聴かせていただきました。

「私の現役時代は上司から『どんなことでも経験することが大事だ』と教えられました。当時の私は上司に恵まれていたので、たくさんの良い経験をさせてもらいました。昭和の時代の良い面だったと思いますが、今の時代にも参考になればと思い話します。

今はありませんが、かつて和歌山県庁の出先事務所として北海道事務所がありました。北海道に事務所があった理由は、北海道で和歌山県産のフルーツの販路を開拓するためです。

初代所長は民間出身者を起用し、知事から販路開拓を命じられていました。私も和歌山県産のフルーツを売るために札幌の卸売市場をはじめ道内を訪問しました。市場の仕事は朝が早いので、人脈を築くために毎朝、午前5時30分には札幌の卸売市場に通いました。早起きした県庁の若い職員が毎日顔を出すものですから、珍しいからか直ぐに顔馴染みになり可愛がってくれるようになりました。そのお陰かどうか、有田みかんは高値で買ってくれるようになりました。市場はセリなので、セリの責任者が私の顔を見ながら、目立たないように値段を吊り上げてくれるのです。ほぼ入札価格が決まったと思った時でも『もう一声ないか』と場内に呼び掛けてくれるのですが、その時の価格とタイミングが絶妙で、おもしろいことにもう一声に応じる人がいるのです。例え100円でも競り落とされる値段が上がれば、結果として何万円も違ってきます。

有田みかんが北海道で流通し始めると味の良さが浸透し、直ぐに高値で取引されるようになっていきました。当時、北海道内での有田みかんのシェアは70パーセント近くになったと思います。それほど有田みかんが支持されたのです。

私は2年で異動となり本庁に戻りましたが、所長は計5年北海道で活躍したのです。後日談ですが『所長は札幌の卸売市場に、私よりも早い時間に来て人間関係を築いていた』のです。それを私の手柄にして2年で本庁に異動させてくれたのです。

他にもあります。道内出張の指示の時も『そこに行くのだったら二日必要だろう』『あそこなら三日は必要だな』と言って、出張命令に印鑑を押してくれるのです。私は『一日で仕事は終えることができるのに』と思ったのですが、所長は『せっかくあそこに行くのだったら翌日は観光をして来なさい』と小声で伝えてくれるのです。仕事は一日で終わることを知っていながら宿泊出張を指示してくれるのです。

『若いうちは経験が大事だから見てきなさい。現地を見た経験は将来必ず役に立つから』と話してくれました。私に『何事も経験だ』と言って余裕を持たせて出張させてくれた凄い所長だったと思います。

班長時代に仕えた知事も凄い人でした。当時、和歌山県では2年後に「世界リゾート博」開幕を控えていました。和歌山県のリゾートをどう表現するのか検討していた時に知事から「オーストラリアに出張して来なさい」と指示があったのです。目的はオーストラリアの木曜島の訪問です。木曜島には和歌山県からの移住者が多く、今も木曜島県人会があるのですが、日本人墓地の管理とその経費負担について調整するためでした。

知事の出張命令ではオーストラリアに二週間の指示がありました。私は『一週間もあれば仕事を終えることができますが』と伝えたところ『和歌山県では2年後に世界リゾート博を開催する。ゴールドコーストには松下興産のリゾートホテルがあるだろう。ヨットハーバーもあるだろう。シドニーもリゾート観光のメッカだろう。それも視察して来なさい。直接、現地を見る経験は財産になるから立ち寄って来なさい』と言うのです。

知事も私に、経験することが将来の役に立つことを伝えてくれたのです。世界リゾート博ではゴールドコーストにおけるリゾートのコンセプトを採り入れ、結果はご存じの通り大成功になりました。私の小さな経験も役立ったと思っています。

私は現在のポジションで、若い人には『何事も経験しなさい。経験することは絶対にあなたの将来役立ちます』と話しています」と伝えてくれました。

人にとって経験することは何よりも大事なこと。現地を訪問することで見えるもの、感じることがあります。経験することは確実に自分の財産になります。