拓殖大学で開催された、不世出の柔道家の木村政彦先生の生誕100年記念シンポジウムに参加しました。木村先生は「木村の前に木村なく、木村の後になし」と謳われた偉大な柔道家です。
拓殖大学柔道部で木村先生に指導を受けた、或いはご縁のあった柔道家の方々が、パネラーとなり木村先生の物語を語りました。
木村先生の教えは「三倍努力」で、人より努力重ねることを部員たちに指導しました。中でも「腕立て千回」は、拓殖大学ですべての学生に指導した稽古だそうです。当時、指導を受けた生徒たちは「千回も腕立てはできない」と思いながらも挑戦を続けたそうです。
そうすると、できないと思っていた「千回の腕立て」が達成できるようになりました。これはできないと思っている先入観を取り除くこと、強くなるためには三倍の努力をしなければならないことを実践で教える形だったようです。
中には「千回の腕立て」ができない学生もいましたが、木村先生はそれぞれの体力に応じて目標を持たせたそうで無理を強要したものではなかったそうです。目標を300回、200 回と自分で決めて、その回数をきっちりとやり遂げる。その目標設定と達成感を稽古で感じさせたのです。
また単独の稽古では千回達成できなかった学生も、木村先生が見ている前では達成できたこともあるようですから、いかに尊敬できる指導者が部員にとって大事な存在なのかを教えてくれる話です。
また打ち込み稽古の大切さも教えてくれたようで、回数よりも何時間もやることを指導したようです。学生たちに時間をかけて稽古することの大切さを体得させたのです。
さて先生が伝説になっている理由として、当時の柔道の試合には階級がなかったこと。全国の選手の情報がなかったため、対戦相手のデータが把握できていなかったことが挙げられます。木村先生は学生柔道大会で優勝を重ねていたことから、全国の選手からマークをされていたのですが、木村先生は相手のことが分からなかったにも関わらず勝ち続けたのです。その強さがやがて伝説となり、現代に至るまで語りつがれている原因の一つになっています。
直接教えを受けた学生たちは、現在、それぞれが指導者の立場となり、木村先生の精神を伝えています。それが拓殖大学の伝統の力になっていると感じました。
また基調講演では作家の増田俊也さんが木村先生にインタビューした内容と、貴重な写真の解説を中心にしてその功績を語ってくれました。大外刈りから腕固めの流れや、ブラジルの無敵の柔術家のグレイシーとの対戦のことなどの伝説を語ってくれました。現役時代から指導者として残した功績まで、先生の教えを受けた弟子の皆さんからの話は、技術よりもその精神を継承することの大切さを感じさせてくれました。
それぞれの各地域や学校には偉人と呼ばれる人がいますが、その功績と精神を語り継承していくことは簡単ではありません。偉人の功績を伝えるためには、直接、教えを受けた世代の方がいる間に次の世代に語る必要があります。物語は一度途絶えてしまうと、次の時代に継承することが難しくなります。
拓殖大学柔道部で受け継がれている木村先生の教えとその精神を語るシンポジウムの案内をいただき、今回参加できたことに感謝しています。偉人を語ることの大切さを再認識できるシンポジウムでした。