活動報告・レポート
2024年9月23日(祝・月)
太刀ヶ谷神社の講義
太刀ヶ谷神社の講義
太刀ヶ谷神社の講義

白浜町の立谷元町長から太刀ヶ谷神社の歴史についての講義を受け、続いて神社を訪ねました。太刀ヶ谷神社の歴史は、今から2684年前の神武東征の歴史から始まります。神武天皇一行は関西に入ってから浪速を出発した後に、泉南地域を南下して和歌山市湊から御坊へと向かいます。「記紀」ではその後、熊野までの記録はないのですが、白浜町太刀ヶ谷地域では「口碑」として神武天皇が立ち寄ったことが伝承されています。

今から2684年前に神武天皇一行の船は台風に遭遇したことから田辺湾に沿って波が穏やかな太刀ヶ谷湾に避難します。現在の地名の中に太刀ヶ谷第一橋や太刀ヶ谷地蔵の他、船着があります。

一行は太刀ヶ谷地域で3日間滞在します。その期間、地域の人からおもてなしを受けていたのですが、一向に嵐が治まらないので船に積んでいた食料も減っていきました。苛立った神武天皇は「嵐よ、静まれ」と叫んで腰の太刀を海に投げ込みます。不思議なことに太刀を投げ入れたことで嵐が止んだのです。

そこで出立することになりますが、村人は神武天皇に対して、海に投げ込んだ太刀をいただくことをお願いしたのです。神武天皇は、これから戦が始まるかもしれないので出立のことや滞在していたことの話を禁じたのです。これから熊野に向かいますが、事前に敵に情報が知れることを恐れたのです。太刀をいただく代わりに村人たちはその言い伝えを護ります。「記紀」の時代でさえ、御坊から以降の足取りが記述されていなかったのは、情報を広めることや地域以外に伝えることはしなかったためです。

太刀ヶ谷神社の講義

しかし地元では神武天皇の太刀を御神体として、太刀ヶ谷神社でお祀りしていたのです。

その間、地元以外に知れないように情報を秘匿して神武天皇が立ち寄ったことを口外することなく守り続けてきたのです。

立谷さんは私が子どもの頃、お祭りというと金魚すくいやお菓子を売ると思っていたので大人に言うと「バカタレ、このお祀りはそんなことはしない神聖なお祀りなんや。そしてお祀りのことはしゃべるなと言っているだろう」とひどく叱られたのです。当時の大人達も先人からの言い伝えを守っていたのです。

神武天皇がこの地に立ち寄ったことは、白浜町が無形民俗文化財に指定する作業に入るまで秘匿されていたのですが、この時から地元から外に向いて発信することになっていったのです。それ以前は、和歌山県内でも太刀ヶ谷神社とその由来を知っている人は少なかったと思います。

ところで太刀ヶ谷神社のお祀りは旧暦の8月1日、現在の9月1日に執り行われています。立谷さんが子どもの頃は、9月1日に決まっていたので、会社や仕事を休んで地域の大人はお祀りの準備と運営を行っていたそうです。子ども心に「大事なお祀りだったと思いました」ということです。

太刀ヶ谷神社の講義

お祀りは地域の方がお宿として順番に担当し、翌年の担当の人が新米を育てて献上するしきたりでした。元太刀ヶ谷神社のあった場所は元宮として現在もありますが、その上部に田があり、そこでお米を作っていたのです。この田で収穫した新米を太刀ヶ谷神社にお供えをしたので、現在、田はありませんが神田跡として残っています。

また新米を献上すると共に、新しいお米を収穫した後の稲を乾燥させた藁でしめ縄を作っていました。現在の太刀ヶ谷神社のしめ縄は藁で作っています。

さてお祀りでは新米のお供えと共に、新米を臼で細かくつぶして米汁にします。この米汁は「おとぎさん」と呼ぶのですが、このような風習が残っているのは「宮中だけ」だと聴きました。またお祀りのための包丁やまな板、お箸は全て新品を揃えて使用する風習もありました。神様にお供えする道具は新しいものを使うことが決まりだったのです。

白浜町の太刀ヶ谷地域で宮中と同じ風習が残っていることは、神武天皇一行が滞在したこと以外に説明がつかないのです。

太刀ヶ谷神社の講義

尤も現在は、お祀りの担い手の高齢化と資金不足などから、9月1日に近い休日に開催され、道具も同じものを使うようになっていますし、お供えは新米ではなく米汁も作っていません。伝統は護っていますが、高齢化と担い手不足によって変化しています。やがて太刀ヶ谷神社の歴史を語る人はいなくなっていきますし、大事な地域のお祀りも途絶えていく危険性があります。

今回の講義は、太刀ヶ谷神社の伝統と歴史を後世に残すための試みです。歴史を知っている立谷さんがこの物語を講義して、受講した人が語ってもらうことを目指しています。将来、太刀ヶ谷神社のお祀りに参画してくれる地域内外の人が増えてくれたら、尚更、有難いことです。

地元で伝わる太刀ヶ谷神社と神武天皇東征の素晴らしい物語を講義してくれたことに感謝しています。

その他
  • 熊野白浜リゾート空港の見学を行いました。東京便以外の便を就航させることを協議しています。
  • 椿地域を案内してもらいました。立谷さんから「心が休まる場所です。たまにここに来ると良いと思います」と説明を受けながら、きれない湾から海を望みました。
  • ご縁をいただいた画廊赤尾さんに立ち寄りました。今日もオーナーさんは笑顔で親切に迎えてくれ、文化や芸術などたくさんの話を聴かせてくれました。