活動報告・レポート
2024年4月22日(月)
伊藤元重先生講義
伊藤元重先生講義

伊藤元重さんの「動き出した日本経済」の講義を聴かせてもらいました。日銀の金融政策を中心に経済を分かりやすく解説してくれました。

経済を見る視点は次のみっつです。一つは鳥の目で、二つ目は虫の目と知られていますが、みっつ目は魚の目だそうです。実践では理論よりも経済の流れを見ることが大事なことだそうです。

さてわが国が20年以上続いたデフレ経済から脱却できたのは、100年に一度と言われる出来事がきっかけになっています。一つはコロナ感染症、もうひとつはロシアのウクライナ侵攻です。この出来事により世界経済は大きな転換期を迎えました。コロナ禍前のアメリカの政策金利は0.5パーセントでしたが、2021年には5パーセントに上げています。わずか2年で4.5パーセントも上げているのです。

アメリカでも2020年はコロナ感染症の影響で需要が減少していましたが、コロナの反動で2021年には需要は回復し始めたのです。しかし需要が増えたにも関わらず供給は弱かったので、超過需要に陥ったのです。そのためインフレが起きたので、それを抑制するために政策金利を上げていったのです。世界的インフレが、日本のデフレ体質を変えることになったのです。

その頃の日銀のデフレ脱却のための取り組みは次のようなものでした。

大規模な量的緩和とマイナス金利、そしてイールドカーブ・コントロールです。日銀が管理可能な短期金利を抑えると共に、長期金利も管理しようとしたのです。一般的に長期金利は10年物の国債の金利を指しますが、日銀はこの金利も管理しようとしたのです。

現在、植田総裁は黒田前総裁の金融政策からの転換を図ろうとしています。イールドカーブ・コントロールの修正を行うことで、金利上昇の流れを作ろうとしています。マイナス金利から転換しようと考えていますし、量的緩和の見直しも図ろうとしています。但し急速な利上げは実施しない見通しで、時間をかけて丁寧に行う考えだと思います。

参考までに、10年もの国債の金利が上昇することに影響を与える要因はみっつです。経済成長率、物価上昇率、そして財政問題のリスクです。

ところで現在の日本円の実力は1ドル110円程度だと考えられているようです。そこに日米金利差の影響を受けて円安に誘導されているのです。10年金利の日米の差は約4.5パーセントなので、110円から45パーセント円安ドル高に誘導され150円台になっています。

日米金利差が約3パーセントまで縮まった令和5年12月は約142円まで円高ドル安になっていたことからも日米金利差が為替レートに影響を与えているのです。

そこで、失われた20年を取り戻すためには安定的な国内投資が必要となります。伊藤先生は「金融緩和はカンフル剤でしかなかった」と説明してくれましたが、それは株価や企業収益は改善したけれど国民所得は増えなかったことや、世界の所得と比較して日本の所得は安くなる一方であることから証明されています。そこで企業に国内投資に回帰してもらうことが求められます。現状、多くの企業は海外投資に資金を振り向けているので、国内での新規投資は少ないのです。また外資系企業の日本への投資が非常に少ないこととスタートアップによる投資も少ないことが日本の特徴です。国内投資が弱いので国内企業と外資系の直接投資が絶対的に必要となります。

その投資先は景気刺激策であるGXとDXとなります。官民あげての温暖化対策とデジタル化への投資により経済活動を活発にすることが求められています。

主な講演内容は以上ですが、これ以外に印象に残った説明があります。

「値上げ交渉は営業の仕事ではなく、社長の仕事である」。日本製鉄社長の言葉だそうです。

賃金を引き上げるためには取引先との値上げ交渉が必要ですが、それは社長が果たすべき役割だということです。賃上げは一企業だけの問題ではなく社会全体の問題で、賃上げをしない限り脱デフレは出来ないのです。

とても勉強になった2時間でした。和歌山市にいながら伊藤先生の講義を受けられる機会を設けてくれたことに感謝しています。