「建築士サンタと巡る和歌山県庁本館」に参加しました。この企画は県庁本館が国の登録有形文化財になって10年目を迎えたことを記念して、和歌山県建築士会和歌山市支部事業委員会が主催したものです。案内をもらったので参加したのですが、知らない歴史を知る機会となりました。
県庁本館を見上げると矢印が上に向かって伸びていました。これまでは漠然と見ていたので気づかなかったのですが、このデザインは、和歌山県が上に伸びることを表しているもので、県勢や発展を志向したものだと思います。建築的には「権力を表している」デザインでもあり、郷土の発展と和歌山県の誇りをイメージしたデザインと言えます。故郷、和歌山県に誇りを持つことの象徴の建築物が県庁本館なのです。
驚いたことに昭和13年に完成したこの建物は強い耐震性を有しているので、耐震補強をしなくても良いのです。北別館や東別館は耐震補強を施していますが、「本館は必要ない」と説明をしてくれました。昭和初期の建物の設計に耐震性を持たせる概念があったことも驚きですし、現在の建築基準に照らし合わせても耐震性があることに驚きます。
説明によると「東南海地震や津波へ備えて耐震性を持たせた設計で、当時の設計者の自然災害への備えを優先させた先進性が感じられます。更に戦争の足音が聞こえ始めた時期なので、屋根に厚みを持たせていることが特長です。爆弾を落とされても貫通しないように厚みを持たせているので、簡単には崩壊しない建築構造になっています」ということです。
また大戦の前に県庁本館は迷彩色に塗られ、上空からは小さな建物が並んでいるように見せたため、昭和20年の和歌山大空襲では破壊を免れています。
また外観は国会議事堂を模したものであり、富山県庁と同じ設計士が設計したため、よく似ています。国会議事堂や富山県庁に模したのは「当時、県民の方々に批判を受けないようにと設計を考えたと伝えられています。もし批判を言われた場合『富山県庁と同じ設計です』と前例を示して、県民からの批判を避ける思考があったようです。和歌山県の県民性が表れている考えだと思います」と説明してくれました。
なるほど、和歌山県の県民性である保守的な考えを表した設計と建物だと思います。当時も現在も県民性の本質は変わっていないようです。
また県庁本館正面にはソテツが植えられています。ソテツは鉄を養分にできることから「お金が貯まる」縁起ものだと言われています。正面に植えられたのは「和歌山県にお金が貯まること。つまり税収が伸びることは県が豊かになることを願って植樹された」と説明してくれました。県庁本館の配置に当たっては、設計士、携わった方々の願いと思いが込められていると思いました。
続いて県庁本館4階の「正庁」の室内はとても豪華です。部屋の正面の「奉掲所」は漆塗りであり、部屋の扉も漆塗りだからです。漆塗りは手間とお金がかかるので、室内の飾りや壁にはあまり見ることのできない仕様です。まして「部屋の扉に漆塗りを施している県庁舎は他にないと思います」というほどです。
説明によると漆塗りは「年月が経過すると黒色が深くなるので重厚さを増していきます。また漆塗りだと木が呼吸をすることが出来るので、生き続けることができます。それを示す痕跡があります。この『奉掲所』で木の節の部分が飛び出しています。これは木が生きているので節が盛り上がっているのです」ということです。
漆塗りの「奉掲所」や扉に触れると、滑らかで手触りがとても良いのです。そして重厚さがあり生きている。日本の技術の凄さを感じられるものです。
更に県庁本館の屋上からの光景は初めて見るものでした。和歌山城の見える角度も、県庁を上から見る光景も初めての視点で新鮮でした。
本館内の3階には丹生都比賣命(にうつひめのみこと)の壁面レリーフが、4階には高倉下命(たかくらじのみこと)の壁面レリーフがあります。どちらも彫刻家の保田龍門氏の作品で、県庁本館の歴史の重みを感じることができます。
最後に、もう一つの知らなかったことです。県庁と県民文化会館のある場所は、元々は和歌山刑務所のあった場所だそうです。県庁東別館の高い壁がその名残だということです。
本日、県庁本館を案内していただいた建築士会の皆さんに感謝しています。ありがとうございます。
- 本日、お世話になっている皆さんに挨拶に伺いました。挨拶を交わす皆さんの笑顔が素晴らしいので嬉しくなりました。来年に向かって良い年になることを祈念しています。皆さんのお陰で良い一年になりました。感謝申し上げます。