活動報告・レポート
2023年11月27日(月)
半島振興地方創生対策特別委員会
白川郷 合掌造り集落

県議会の半島振興地方創生対策特別委員会の視察の初日は、世界文化遺産の白川郷の合掌造り集落におけるオーバーツーリズム対策の研修を行いました。

白川村で世界遺産を担当している観光課長から説明を伺い、その後、白川郷を歩いて案内してもらいました。

現在、白川村の人口は約1500人で、そのうち第三次産業に従事している割合は約36%だと説明がありました。つまり、観光産業が白川村の主要産業となっているわけです。特筆すべきは一人当たりの村民所得は約310万円で、岐阜県の中の市町村で県民所得は第一位となっていることです。如何に世界遺産が村民所得につながっているのかを示しています。

このことから世界遺産を護る日常の取り組みが、将来の白川村を築くことにつながるものです。もちろん白川村の皆さんは世界遺産で稼ぐことを目的にしているものではなく、地元の伝統と文化を護ることが使命だと思って保存してきたことが世界から評価されたということです。

これまでの白川郷の世界遺産認定までの取り組みの経緯を、以下に簡単に紹介します。

わが国の高度成長時代に建設されたダムや村の近代化に伴い、村内の合掌家屋が減少していきました。
そこで1971年に地元では「売らない」「壊さない」「貸さない」を保存三原則とした「自然を守る住民憲章」を制定し、この景観を守ろうとしたことが、後の世界遺産へとつながっていったのです。最初から世界遺産認定を目指した取り組みではなかったのです。

白川郷が世界遺産に登録されたのは1995年で2025年には世界遺産認定30周年を迎えることになります。

ここで近年、問題になっているのがオーバーツーリズムです。地元の皆さんの生活環境に影響を与えているため、集落内の見学時間を午前9時から午後5時までと設定しています。

世界遺産というと人類が築いてきた遺産というイメージがあり、歴史的な史跡、旧跡のように思っています。しかし白川郷は日常の暮らしの場であり、観光と生活環境を両立させるという課題があります。

そのため村の観光行政の概念はサステイナブルツーリズムを志向し、観光と生活を両立させる取り組みを行っています。例えば白川郷集落への車両乗り入れの禁止や、観光客に対するマナーの啓発を行っていることです。

何よりも世界遺産に認定されたのは、この集落の景観の素晴らしさもさることながら、故郷が守るべき日本の文化を次の世代に引き継ぐという精神性が評価されたものです。

白川郷 合掌造り集落 神田家

案内してもらいながら白川郷を歩いてみて、また代表的な合掌造りの神田家を案内してもらって、日本の伝統を守ることが如何に大変なのかが分かりました。快適で豊かな現在の生活ではなく、集落の伝統的な生活様式を保っているからです。一度、現代文明の豊かさと快適さを体験してしまうと、昔の生活に戻れなくなってしまうのが通常です。

しかし白川郷で生活している方々は、これまでの伝統的な生活を維持しています。11月の寒さが厳しい季節に、板の間や囲炉裏のある家屋で生活することがどれだけ大変なのか、冷え込む中、家屋内を見学しただけでも分かるものでした。

これらの合掌造りの建物を維持管理するために、入場料を徴収し観光客に生活空間を開放しています。これも白川村役場と地元の皆さんが協力し合い、世界遺産と観光、それと生活を両立させるための取り組みだそうです。

今日の白川郷もインバウンド観光客が多くを占めていて、現在は欧米からの観光客が多いことは、白川郷は日本文化の象徴的な世界遺産であることを示しているように感じました。

このように白川郷は外国人観光客の割合が多いのですが、但しこれまでは、タイ、シンガポール、香港、インドネシア、および台湾からのお客さんが多くを占めています。

現在、インバウンド観光客が増えていることから、観光地ではオーバーツーリズム対策に取り組んでいます。和歌山県の世界遺産である高野山、熊野古道でも、オーバーツーリズム対策の必要性が生じていますから、行政と地元が協力している、この課題への取り組みは参考になるものでした。

つまり、世界遺産の価値は景観を維持することだけが目的ではなく、地元の皆さんの優れた精神性や伝統文化を次世代に継承しようとしている気持ちが必要だということです。白川村の職員さんと一緒に白川郷を歩いていると、地元の方々が声を掛けてきました。これは日頃から職員の皆さんが地元とコミュニケーションを図っている証拠です。この人と人のつながりこそ世界遺産の価値だと思います。

2025年には白川郷が世界遺産に認定されてから30周年を迎えます。また来年、高野山と熊野古道が世界遺産に認定されてから20周年を迎えます。先に世界遺産に認定された白川郷を視察して後世に伝えるべきものは景観と共に地元の人々の精神性の価値だと感じることができました。