いきいきシニア主催「熊野古道ウォーク」に参加しました。今回は、海南駅に集合して、鈴木屋敷、藤白神社へと歩くコースでした。海南市が和歌山県内から本格的に聖地に向かう入り口だったようで、藤白の手前には祓戸王子址がありました。祓戸王子とは、ここで心身のお祓いをすることで清めた後に聖地に入ることから命名されたと言われています。田辺にも祓戸王子址がありますから、聖地に入る入り口に当たる場所にこの王子が設置されていた解説をしてくれました。
海南駅からの熊野古道ルートは車道と併設されている道なので、往時の面影は感じられませんが、祓戸王子址に向かう山道はまさに熊野古道であり、語り部の坂本平さんが「これが熊野古道で皆さんに歩いてもらいたかった道です。この道を歩いてよかったと思ってくれるなら、来年は本格的に熊野古道ウォークを実施したいと思います」と弾んだ声で語ってくれました。
坂本さんが話してくれた熊野古道には九十九王子が設置されています。約3km毎に設置されていると言われていますが、この王子とは休憩場所であり宿泊場所のような場所で、九十九とは「たくさん」の意味です。都を出発した上皇や天皇は熊野古道に向かう道中、この王子で休憩を取りながら、聖地熊野に向かったのです。そんな往時を想像しながら説明を聞いて歩きました。
そして藤白から歩き始める熊野古道の到達点は言うまでもなく熊野三山です。熊野三山を目指す旅が巡礼の道であり、世界遺産に認定された聖なる場所に続く道なのです。聖なる地とは現世と精神世界をつなぐ場所であり、現世から聖地熊野に入り精神世界で魂を浄化させてから、再び現世に戻って活動する。そんな信仰の場所が熊野です。
長い歴史を持つわが国においても熊野は特異な場所であり、日本人の精神文化の核となる場所だと言えます。
そんな聖なる地は古から全ての人を受け入れてきた蘇りの地であり、黄泉の国を表現した場所だとも言われていました。黄泉の地と現世を結ぶ場所は全ての人を受け入れて心身ともに蘇らせてくれていた。そんな聖地が和歌山県であり、令和5年度の和歌山県の観光のキャッチコピーが「聖地リゾート和歌山」なのは納得できるものです。
今回、ほんの一部でしたが熊野古道を歩いて、聖地に続く入り口を体験しました。立ち寄った藤白神社には、熊野三山を表現する仏様が祀られていて、語り部さんによると「ここに参拝すると熊野三山に参拝したのと同じご利益があります」ということです。
僕は熊野古道を全て歩いていますが、古道を歩くのは久しぶりの体験となりました。主に熊野古道を歩いたのは南紀熊野体験博の時でしたが、もう20年ぐらい前のことになります。熊野古道は多くの観光地と異なり、知識がないと熊野古道への興味は半減しますから、語り部さんに案内してもらうことをお勧めしますが、今回の熊野古道と藤白神社の説明は特筆ものでした。
そして「熊野古道と同じように和歌山県の魅力を語ること、理解してもらうことは難しい」と感じました。特異な歴史と精神世界を育んだ文化は、ここを訪れただけで、見ただけで、理解できるものではないからです。欧州から熊野古道を訪れる観光客が多いのは、熊野と同じような精神世界と文化の素養を持っているからだと思います。日本人よりも欧州人が観光に訪れる割合が高いと聞いていますが、異文化に興味を持つことは当たり前のことなので、欧州の方々に和歌山県の精神文化と、この土地の価値を理解してもらえることは有り難いことです。
久しぶりに熊野古道を歩いて、往時と体験博の時代と現代を行き来することが出来たので、一層感慨深いものがありました。