視察の二日目は美浜発電所です。美浜発電所は1970年に大阪府で開催された「エキスポ70」に日本で初めて原子力の電気を送電したことで有名な発電所です。1970年8月に万博会場に発送電、同年11月に1号機の営業運転を開始しています。当時は未来のエネルギー、人類が手にした原子エネルギーなど明るい未来を予感させてくれた発電所でした。
あれから年月が流れ2015年4月に1号機と2号機が運転終了、2017年4月に廃止措置計画の認可を受けています。わが国の原子力の廃炉の先鞭役になっています。そして3号機は2021年6月に40年を超えて送電を開始した原子力発電所として長期運転の面でもパイオニアの役割を果たしています。わが国の原子力エネルギーの歴史を担ってきた発電所と言えます。
原子力発電所の運転期間は40年とされていて、原子力規制委員会の認可を受けることができたら、一回限り20年運転を延長することができます。美浜発電所はその20年運転延長の認可を得た発電所でもあるのです。一方、1号機と2号機は廃炉が決まっていて、現在は廃止措置の工事を行っています。本年度は原子炉周辺設備の解体撤去工事を行っている段階であり、2035年まで工事を行います。
2036年から2041年まで原子炉領域の解体撤去を行い、2042年から2045年まで建屋などの解体撤去を完了する計画になっています。廃炉の分野でも技術の集積を図るパイオニア役を担っていることになります。
年月の経過は早いもので、美浜発電所は未来を感じさせてくれる最新の原子力発電所の印象があり、関西で原子力と言えば美浜と答えるほどの発電所でした。それが今では40年が経過して1号機と2号機が廃炉する時を迎えているのです。これまで何度か視察に訪問していますが、解体作業に入っている姿を見て「時の流れと時代の要請の変化」を感じました。社会が求める価値は常に変化しているので「人が創ったもので不変のものはないので、対応していかなければならない」と思う事例になりました。
1970年から2015年まで日本の社会を支えてくれた美浜発電所に、これまでのお礼と感謝の気持ちを感じました。現実社会のエネルギー需給を担ってくれていた美浜発電所は時代の要請に答え続けた発電所でもあったのです。わが国のエネルギー供給体制の問題は、次の段階に入っていると感じています。廃炉した跡地はどう活用するのか。原子力発電所の位置づけはどうなるのかなど、今回の視察は日本の社会を支えるエネルギーのあり方を考える契機になりました。
そもそも巨大技術は潜在的にある危険度を低下させて、人類の豊かな社会を築くためのものです。飛行機は便利な乗り物ですが、平和利用しているから私達が利用することができているのです。飛行機の利用方法を変えると戦闘機にもなります。戦争で利用しようとすれば戦闘機に変化していくのです。インターネットは元々軍で活用するために開発した技術です。現代社会の生活で不可欠なインターネットですが、軍事用としても利用している技術なのです。
つまり誰が利用するのか、どの会社がその技術開発と運用を担当するのかによって平和利用なのか軍事利用なのか違ってくるものが科学技術であり巨大技術なのです。原子力の平和利用をしているのが発電所なので、その使い方によって社会で必要な技術にもなりますし、戦争で利用される技術にもなるのです。
私達の社会は信頼で成り立っています。あの人が使っているから信頼できる。あの人が説明してくれるので信頼できると思うのです。飛行機や鉄道、インターネットなどに代表される技術がそうで、それほど技術の内容を知らなくても私達は利用しています。その技術と運用している人や会社を信頼しているから私達は飛行機や鉄道を安心して利用しているのです。
要は科学や巨大技術はそれを運用している人や会社を信頼することが大事なことなのです。知らない技術であっても専門家や技術者を信頼して私達がそれを利用することで社会は成り立っています。
原子力発電所もそれと同じなのです。電力会社を信頼する、電力会社の人を信頼すること。分からない技術は信頼することが大事なことなのです。もちろん、不安や疑問に思うこと、質問することは大事なことです。質問することが原子力の安全性の向上につながりますし、レベルを高めるために疑問点を質問することはとても大事なことです。
そのうえに立って電力会社やそこで働く人を信頼する、社会を信頼することが巨大技術の恩恵を享受するために必要なことです。反対や異論を訴えるばかりで接点を見つけようとしないようでは社会の発展はありません。
美浜発電所長の説明と人柄、同行案内してくれた電力会社の方々の人柄は、原子力発電を信頼するに値するものでした。原子力発電所などの視察を通じて関わっている人を信頼することが、社会の発展に必要なことだと考えました。
良い視察を企画してくれた皆さんに感謝しています。ありがとうございます。
追記。JR敦賀駅にも立ち寄りました。北陸新幹線の開通が迫っていて、JR敦賀駅も立派な駅に変身していました。