永岡一恵先生の米寿のお祝いのお茶会にお招きをいただきました。これまでのご功績をお祝いするとともに、永岡先生の点ててくれたお茶を堪能しました。先生は招待客の全員にお茶を点ててくれたうえ、主客を始め参加した全員と会話を楽しんでくれました。心からのおもてなしをいただき「お茶の精神」のさわりに触れたように感じました。
それは今日の日の出会いと、お茶席に必要なものは言葉だけですから心からの会話を楽しむことです。先生は所有している数々の茶器でおもてなしをしてくれました。お弟子さんに訊ねたところ「これだけの茶器でお迎えしてくれる機会はそれほどありません。今日は特別のお茶席です」と話してくれました。
茶室ではまず掛け軸の素晴らしさを堪能し、後半の席では掛け軸を茶花に変えてお迎えしてくれるなど、客人をお迎えする配慮が行き届いていました。ふきのとうなど季節の花でお迎えしてくれることの意味を感じます。ふきのとうは春の花ですから、客人を迎えるために時間を掛けて探してくれたものです。私達を迎えるために「私達のことを想って時間をかけてもらっていること」がおもてなしの神髄です。
一流ホテルの食べ物の値段が高いのは、お客さんをお迎えする限り良いものを提供したいという思いがあるからだと聞いたことがあります。例えばフレンチト―ストを作るのに24時間かけているホテルがあるようですが、それは美味しいものを最高の環境で食してもらうことを念頭に置いたものです。24時間かけて作るものなので値段は高くなりますが、人が手間暇と想いを込めたものの価値は高くなるのです。
お茶席も同じで、この日のためにかけた時間と一流の茶器などで一服してもらうこと、共通の話題での会話など、お茶席が優れた出会いの場であることが分かります。永岡先生から「片桐さんもお茶が随分と分かってきましたね」と話してくれましたが、先生の立ち振る舞いとお茶席の見事さから感じることがあるからです。
今回「竹」の柄の茶器が数点用意されていました。これは寅年なので虎にちなんだものだそうです。昔から竹林の中から虎が出てくる物語があり、寅年を感じられる竹の柄を楽しんでもらいたいと願う先生のおもてなしの精神です。
季節を楽しむ、人との出会いを楽しむ、会話を楽しむ、そして風情を楽しむことがお茶席の楽しさです。米寿のお祝いのお茶会にお招きをいただいたことに感謝しています。良い時間を過ごすことが出来ました。
自宅で療養中のYさんを訪ねました。前回、お見舞いに伺ったとき「コーヒーが好き」なことを聞いたので「ブルーマウンテンNO1」が楽しめる珈琲店がある話をしました。Yさんは「ブルーマウンテンは懐かしいですね。高価だからなかなか飲めなかったですし、今はしんどくてコーヒーを飲むこともできません」と言ったことから「次回、『ブルーマウンテンNO1』の珈琲豆を持ってきますから、珈琲の香りを楽しんでください」と伝えていたのです。
今日、その「ブルーマウンテンNO1」の珈琲豆を「珈琲の樹」のオーナーに頼んで挽いてもらったので、Yさん宅に届けたのです。Yさんとご家族は袋から広がる最高の香りを楽しんでくれました。Yさんは「最高の日やなぁ」そして「忙しい中、こうして来てくれるなんて最高の幸せです」と喜んでくれたのです。幸せに感じるのがこちらも同じなのは、気持ちを共有できることが幸せなことだからです。
前回、お見舞いに来たときよりも少し体調の具合が良くなったことが気になりましたが、会って言葉を交わすことがどれだけ嬉しいことなのかを感じることが出来ました。
そして「隣と揉めているときは腹が立ったけれど、それを解決してくれて平穏な日々にしてくれたお陰で、こうしてベッドで横になっていられることに感謝しています。隣と揉めていたならこんなにゆっくり横になれなかったですから、本当に感謝しています」と話してくれたのです。
「これで最後かなぁ」と言うので「そんなことはないですよ。来週もその次の週も来ますから。元気でいてもらわないと困ります。来週、都合の良い日を言ってください」と伝えたところ、Yさんの目から涙が光るのが見えました。
このとき「ブルーマウンテンNO1」の香りが感じられました。明日、珈琲好きのYさんがこの珈琲を飲めることができたら嬉しいことです。