活動報告・レポート
2022年2月28日(月)
所得水準
所得水準

県議会一般質問の打ち合わせを行いました。今回、取り上げる内容の一つに和歌山県の年間所得水準のこともあります。この問題の前提となる議論は次のようなものです。

和歌山県の所得水準の話です。所得を上げるためには所得の高い企業を誘致すること以外に方法は思いつきません。現状のままで全体の所得を高める方法があれば良いのですが、インフレで上昇していく以外に上昇する方法が見当たらないのです。

例えば大企業は政府からの賃上げ要請に応えられるところがあるかもしれません。そうなったとしても請負企業の給与が上がる可能性は極めて低いのです。請負企業が部材の価格転嫁をお願いしたいとしても、大企業はそれに応えることはないと思うからです。つまり請負企業は自主的に給与を上げられる環境にないということです。

和歌山県の99.9パーセントは中小企業であり、大企業に部材を納品している事業者であることから、この請負構造では所得水準を高めることは極めて難しいと言わざるを得ないのです。価格を決められる立場、つまり市場を握っている企業でない限り価格支配は出来ませんから所得を上げられないのです。

アメリカのIT企業のエンジニアの所得水準が「凄いことになっている」と報道されていますが、それらの企業は現在の世界市場を握っているからであり、他に有力な競合企業が少ないことが原因だと思います。大企業がいつでも代替品の供給を受けられる業種の場合、価格を決められないのです。

かつて和歌山市での事例がありました。平成30年9月3日から4日にかけて、和歌山市が台風第21号に襲われたときのことです。和歌山県の雑賀崎工業団地が浸水したことから、この地に立地している事務所内、工場内も浸水して工場の機能が停止し、工作機器などが稼働できなくなりました。機器の整備や入れ替えなどが必要となり、工場が復旧するまで時間が要することになりました。

台風による高潮の影響を受けたのが和歌山県の雑賀崎工業団地であり、他県の被害はこれほどでもなかったと記憶しています。当初メーカーは、これらの企業が台風被害を受けたことからお見舞いや支援をしていたと聞いています。

ところが稼働停止して数週間が経過すると状況に変化が現れました。メーカーに被害はなくメーカーに部材を供給している他県の同業者も被害を受けていませんでした。そのためメーカーは被害を受けた取引企業に対し「納品が出来ないのであれば取引先を変更する」と通告をすることになったのです。メーカーに納品する部材は当然、仕様書がありますから、同じ部材を製造している企業があるのです。変わらずに稼働している同業者に発注を切り替えされてしまうと、「これまでの受けていた注文が戻ってこなくなる」との不安が出てきたのです。

ある経営者が「工場が再稼働した暁には取り引きを再開して欲しい」とお願いに行ったのですが「いつ頃までに供給が出来るのですか」「これまでと同じ品質、数量の供給は可能ですか」などの厳しい質問をされたのです。

しかしその時はまだ浸水後の対応、地震保険の請求や機材の修理などの対応に追われていたので、メーカーが求める再開見込みの質問に答えられる筈はなかったのです。

メーカーからは「いつ供給が開始できるか分からなければ取引先を切り替えざるを得ません」と伝えられたのです。冷酷な言葉ですが、市場は止まることなく動いていますから、メーカーとしては絶えることなく市場に製品を供給し続ける必要があるのです。

被害を受けた企業はメーカーに対して、これまでの築いてきた取引関係と高い品質の部材を供給し続けた信頼関係などを訴えお願いしたことから「少し猶予を与えましょう」と回答を得ることができたのです。

そこでここに立地している工場は、和歌山県に対して県工業団地の津波対策、高潮対策を強力に求めることになったのは当然の帰結です。

このようにメーカーとの取引企業は価格も納品も自由にならないので、メーカーとの取引価格が上がらない限り、単独で従業員さんの所得を上げることはできないのです。まして内部留保があったとしても災害や取引中止などのリスクに備えるものなので、給与のために放出できることはありません。

和歌山県の所得水準を上げることは容易ではないことが分かる事例でした。和歌山県だけが単独で所得水準を上げることは簡単ではないことを前提に政策を考える必要があります。そこから導いた答えの一つがハイテク企業の誘致なのです。