和歌山県の観光に関して感じていることを聞かせてもらいました。共通している思いであり、参考になるので以下に紹介します。
和歌山県の観光に関して思っていることがあります。例えば白浜町の名所のひとつに円月島があります。かつては鉄道を利用して白浜に来る観光客が大半だったので、白浜駅から巡回バスに乗車して円月島や白良浜を巡り旅館に宿泊することが通常でした。円月島は日中も、夕暮れ時もきれいなので観光客は巡回バスから降りて、この場所で時間と共に移り変わる光景を観ていたのです。初めて見る円月島に感動してくれていたように思います。
ところが現在は自動車で白浜町を訪れる人が大半となり白浜観光は変わっています。この円月島を初めて訪れる人もいるのですが、車を止めて降りることなくゆっくりと通り過ぎてしまうのです。初めての訪問なのに滞在時間が極端に短くなっているのです。何人かにその理由を尋ねたことがあります。滞在時間が短い理由は「円月島は何度も見ているから」ということでした。
「初めての訪問なのに何度も見ているのはどうしてだろうか」と疑問に思い尋ねたのです。その答えは「パソコンの映像や動画などで何度も見てから現地に来ています。現地は初めてだけれども円月島は何度も見ているから同じです。現地に来た、写真を撮ったという体験に来ているのです」とのことでした。
この回答になるほどと思いました。特に最近はドローンの映像をテレビやパソコンで見ているので現地を訪れても観ることのできない新鮮で感動する映像を見ています。現地を訪ねるよりも観たこともないドローンの映像に感動することがあります。余計に現地を訪ねたときの感動はなくなっているのです。
つまり初めての訪問であってもかつてのような感動はなく、以前と同じような初めての訪問になっていないのです。映像で観てから現地を訪ねる観光に変化しているので、観光に「初めての感動」はなくなりつつあります。ありのままの大自然や歴史的な意味を持つ地域などを除けば、自然をそのまま観ることの感動は薄らいでいることを受け入れ側は意識する必要があります。
ここで必要なものは、現地に来たときにだけ体験できることを付加価値として用意しておくことです。それは温泉や食事、自ら体験できる何かです。
話の途中でこんな話をしてくれました。「白浜町には椿温泉があります。白浜温泉と比較すると名前は売れていないことや、白浜の中心地から車で約20分かかることから、最初に訪れる観光客は比較的少ないのです。しかし泉質はよくて、まるで化粧水の中に浸っているような感じがします」と紹介してくれました。その話を聞いたことで「行ってみたい」と思いました。つまり「化粧水のような温泉を体験したい」と心が動いたのです。
白浜町に限らず、全国どこでも初めて見る観光はなくなりつつあります。むしろドローンの映像に慣れているので、現地を訪れたときの感動は動画がなかった時代よりも薄くなっていると思います。観光地は初めての観光ではないことを意識した体験型のメニューを用意してPRする必要があるのです。現地だけで体験できる特別なものを用意することが、現代の観光地となり得ると考えるべきです。
白浜温泉に入ることや熊野古道ウォーク、現地でだけ食べられる食事などが体験となり観光となるのです。特定の目的や思い出のある人は別として、多くの人は自然だけではリピーターにはなってくれませんから体験が必要なのです。
世界が観光エリアとなり、ドローン映像などで観光地に珍しさがなくなっている現代、自然だけでリピート性を持たせることは難しい時代になっています。観光行政に携わる人のアイデアと企画力などの力量が必要になっています。まさか「予算がない」などの理由で企画が進まないところはないと思いますから、観光行政のあり方を「初めての訪問」がない視点で見直したいと考えています。