第36回国民文化祭「紀の国わかやま文化祭2021」参加イベントである「陸奥宗光伯と歴史、文化、教育、芸術、生命」講演会を開催しました。新しく開館した和歌山城ホールでの開催でしたが、ホールの雰囲気といい使い勝手といい、とても良い仕上がりになったことに深く感謝しています。
「陸奥宗光外務大臣の功績を教育に活かす実行委員会」メンバーは午前8時50分に集合して、12時までに準備を完了させました。全員で受付、舞台、パワーポイントの調整などを行い、お客さんの来場を待ちました。12時30分からの開場でしたが、凡そ150人を超えるお客さんに来ていただけたので会場は埋まり、気持ちが入っていきました。
文化庁の鍋島豊文化財第一課長は「陸奥宗光伯の生きる力を教育にどう活かすか」、銅像教育研究会の丸岡慎弥さんからは「陸奥宗光公像とゆかりのある銅像たち」をテーマに講演をしてもらいました。
第二部のシンポジウムで「宇宙教育の先駆者上野精一」と題して、和歌山県に宇宙を呼んだ男であり、現代の偉人として尊敬している上野さんの和歌山県での功績と志を講義しました。
こんにちは、片桐章浩です。この実行委員会では陸奥宗光伯の顕彰活動を行っていますが、今回の国民文化祭に際しては故郷の偉人をテーマにして講演しようということになりました。僕は現代の偉人として敬っている上野精一さんの話をしたいと思い、今回、話をさせていただきます。
今回取り上げている偉人は江戸時代、明治から昭和にかけての偉人です。上野さんは平成を生きた人なので偉人と呼ぶには早いのですが、令和元年6月に若くしてお亡くなりになったことから、現代の偉人としてその功績を伝えたいと思います。元JAXA役員なので国際宇宙ステーション計画の責任者として活躍するなどの国レベル、国際レベルでの実績と功績がありますが、それらは割愛させていただき、今回は和歌山県での功績をまずお伝えし、その後、宇宙にかけた思いを伝えたいと思います。
和歌山県では公教育の場で「宇宙教育」を実践しています。これは全国で初めてのことであり、和歌山県が誇る教育のひとつです。形になってしまうと簡単に導入されたように思いますが、スタートするまでには1年半から2年の年月が必要でした。
平成22年、JAXAと和歌山県教育委員会とで宇宙教育活動に関する連携協定を締結していますが、これができたのは宇宙教育に関わる教員を要請できたからです。そして平成23年に和歌山県教育委員会は「JAXAスペースティーチャーズ和歌山」を発足させました。発足させるためにJAXA、和歌山大学観光学部、和歌山県教育委員会の意思疎通と連携を図る必要があり、それぞれの分野で大変な活動と気概を持って取り組んだことを覚えています。
JAXAの冠をもらっての活動は決して簡単なことではなく、上野精一さんが宇宙教育の意義をしっかりとJAXA宇宙教育センターに伝えて研修カリキュラムを用意してくれたから実現したものです。8人の「JAXAスペースティーチャーズ和歌山」の先生方は、その後、活躍してくれることになるのですが、和歌山県での宇宙教育は、当時、文部科学省で県教育長が先進事例として発表することになったほどです。
この教育機会があったからこそ、約13年の年月を経て和歌山県でのロケット発射が現実のものになる土壌を作ってくれたのです。子ども達への宇宙教育を実践できる和歌山県なので、宇宙に近づくことができたのです。この二つが大きな功績です。
そして宇宙を科学と共に文系にも展開させて宇宙教育において「和」の精神を導入したことも大きな功績です。現代は米中の対立が激しくなっていますが、力と力がぶつかりあうと対立に発展します。しかし力を吸収してしまうと対立ではなく相手を包み込む融合になります。国際社会における日本の役割はそこにあると思いますが、宇宙を学ぶことで「和」の精神を広めたのが上野さんの功績です。
このように日本の心とは「和」の心であり、それは対立ではなくて相手の主張も取り入れて融合させてしまうものです。「和」とは「日本」を意味する文化的概念であり、争わないこと、そして私達の和歌山県を意味する言葉でもあります。
少し展開しますが世界では「白黒をはっきりさせる」ことが求められます。欧米では白黒は対立するものであり、その間の色の概念はありません。しかし日本では白と黒の間にはたくさんの色があります。黒といっても限りなく白に近い黒もあれば、白といっても限りなく黒に近づく白もあります。白黒はっきりさせることを求めない「和」の心が宇宙であり、世界に必要な精神です。それを伝えることができるのは日本人だけです。上野さんは宇宙教育を通じて日本人の持つ精神性と、「和」が世界平和につながることを伝えてくれたのです。
もうひとつは和歌山県が「和」を尊ぶ県だということです。自然信仰が生まれた和歌山県こそ宇宙に最も近い県だといえます。宇宙は科学の分野だけで考えるのではなく日本人が理解している宇宙との一体感、神との一体感を感じてこそ争いのない地球を築けるので、日本人こそ宇宙開発のリーダーになるべきです。覇権争いは月の領土にまで発展しています。まさにスターウォーズであり、月のこの部分はアメリカ、この部分は中国など、争いの原因になるような宇宙開発は必要ありません。日本人がリーダーとなり「和」の精神で宇宙開発に乗り出すべきですが、その精神性を伝えてくれてたのが上野さんなのです。
上野さんが残した言葉です。「地球は宝石のように美しい奇跡の星」。
この写真を見てください。青い星が地球で手前の灰色の星が月です。夜空を見上げると明るく輝く月がありますが、実は空気も水もない死の星なのです。
地球とは生命そのものであり、それ以外の宇宙空間は死の世界なのです。これを感じられるのが宇宙です。宇宙を知ることは生と死を感じることですから、生命が存在する地球こそ宝石のような星だと伝えてくれたのです。まさに宇宙を学ぶことは生きる目的を探ることなのです。
もうひとつ上野さんの言葉があります。「辛い時や苦しい時は空を見上げると宇宙が見えます」。人は辛い時は下を見るものですが、そんな時こそ宇宙を見て欲しいのです。人は上を向くだけで元気になれるからです。上を向いて生きること。それだけで毎日の光景を変えることが出来ます。
今から14年前、上野さんが串本町に立っていました。「ここにロケット発射場をつくりたいよね」と話してくれました。当時は誰もロケット発射場ができるとは想像もしていませんでした。「できるはずがない」。そこから夢はスタートしました。
「宇宙に最も近い県、和歌山県」を掲げ、「宇宙が和歌山県にやってきた」というシンポジウムを開催し、夢が現実に向かい始めたのです。そして令和3年度に和歌山県でロケットが打ち上げられることになりました。夢が現実になるまでに要した時間は約14年、上野精一さんが思い描いた夢が実現する直前に迫っています。
これが上野精一さんを現代の偉人と呼ぶにふさわしい和歌山県での功績と志です。宇宙教育の先駆者であり、和歌山県の持つ精神性「和」を宇宙に持ち込んでくれました。
上野さんはJAXAを退職した後は故郷和歌山県に戻り、宇宙プロジェクトに参加してくれる予定でしたから、とても残念に思います。しかし偉人の志を引き継いで発展させることが後を託された人がやるべきことです。例えば6Gと呼ばれる次世代の衛星携帯電話を導入するためには、人工衛星を打ち上げる必要があります。その人工衛星の打ち上げに和歌山県が関わることを目指すことも、上野精一さんの宇宙にかけた思いと意思を引き継ぐことです。偉人の功績と志は受け継がなければなりません。
令和4年、和歌山県内でロケットが打ち上げられます。宇宙に向かうロケットを見た時、上野精一さんの名前とお顔を思い出してください。以上で「宇宙教育の先駆者」上野精一さんの話を終わります。ご清聴をいただいた皆さんに感謝いたします。ありがとうございます。
以上が僕の講義の要約です。講義の機会を与えてくれた皆さんに感謝しています。