戦後時代の福井県は朝倉氏が藩主でした。後に織田信長に滅ぼされることになるのですが、その朝倉氏の遺跡が発掘されたことから「朝倉氏遺跡博物館」を建設しています。この建築物は福井県産の木材を活用したもので、その趣旨は地元林業の振興と故郷への愛着を図るものです。外材と比較して少し価格が高くても地元木材を使うことで林業振興につながりますし、仕事に携わる人は故郷の建築物の材料にすることで誇りを持ちます。
この建築物は故郷の偉人である朝倉氏の館を再現する予定なので、偉人のことを学び、その生き方を知ることで誇りに感じてもらうことも目指しています。館は地元の宮大工が担当していると聞いたので「宮大工は福井県にいるのですか」と尋ねたところ「福井県には神社仏閣や文化財がたくさんあるので宮大工はたくさんいますよ」と話してくれました。和歌山県で宮大工は少ないので、文化を大切にしている福井県の姿勢を羨ましく思いました。
宮大工に仕事があるということは、それだけの依頼があることです。宮大工の仕事の単価は一般建築物と比較して高いので、コストが少々高くても古きものを大事にしている県の風土を感じます。
ところで朝倉氏のこの遺跡は埋まっていたものが発見されたものです。遺跡そのものを博物館として囲い保存するために館内の通気性を良くする工夫がなされています。宮大工の仕事の跡も見せてもらいましたが、説明によると図面を忠実に再現した見事な出来栄えのものです。宮大工の仕事は現代の仕事だけではなく、かつての宮大工との会話であり競争なのです。かつての宮大工の仕事に挑戦しているので、「負けられない」という気概が入っています。
そのことは将来の宮大工との闘いでもあるのです。将来の宮大工がこの建築物を補修する時代が来ることになります。その時「平成や令和の時代、宮大工の技術や職人魂はたいしたことがないな」と思われないために、最高のレベルの仕事にする必要があるのです。過去と将来の宮大工と試合をしているようなものですから、戦う相手はその時代が認めたレベルです。現代の宮大工に負けて欲しくありませんから、その視点で建築物を見せてもらいました。外観も地元の設計事務所が担当して素晴らしいのですが、内部も魂が込められていて素晴らしいものでした。
福井県の文化度を感じるこの建築物は現代人に故郷の歴史を知ってもらうだけではなく、技術の伝承と故郷を担っている技術者の魂を感じてもらうことになります。現場で説明を聞いて、そんな仕事に携われている誇りを感じました。福井県庁の職員さんの故郷と仕事への誇りを感じました。とても良い仕事をしています。
今回は福井県で、この博物館や県内の河川に地元の木材を使っている状況を確認してきました。狐川の河川改修において木材を使っている事例の説明と現地視察をしましたが、和歌山県では実施していない事例でした。木材の使い道として参考になるものでした。
和歌山県でも紀州材の活用を促進していますが、福井県の木材活用の取り組みに触発されることがありました。聞いたことや学んだことを和歌山県で適用できるかどうかを検証することが視察において大事なことです。建設委員会として、今回の視察結果を議会一般質問で反映させることを話し合いました。
もうひとつ驚いたことがあります。小浜市の河川が度々氾濫している地域に住宅を始めとする建築を禁止する市の条例を制定していることです。その河川改修によって住宅地を守り、増水した川水を田に流し込む手段を講じていることです。よく地元や地主の方々の同意が取れたものだと思いますが、これによって大雨による浸水被害を防ぐことができるのです。私有地の使用制限をかけてでも安全確保を図る福井県と小浜市の姿勢、これこそ防災対策です。しかも福井県産の木材を使って地域の安全を確保しようとしています。
ひとりの委員が「福井県には覚悟がある。だから危険な場所の建築物の制限を行うことや高くても福井県産の木材の使用を求められるのです。和歌山県にも覚悟が必要だと思います」と発言しました。覚悟こそ事態を前に進める秘訣ですから、行政の全ての分野で覚悟を持って欲しいと思います。