日頃から経済情勢などの講義を受けている先生宅を訪問して、新年の挨拶と経済の話を聞かせてもらいました。日本経済のこれまでと、見通しが立たないこれからについて学ぶことが出来ました。
安倍内閣は前例のない金融緩和政策によって円安に誘導することで、輸出企業の支援を行ってきています。対ドルとの関係を円安に誘導したことから一時期70円台にまで円高になっていた為対ドル為替レートを110円台に誘導しました。その恩恵を受けた輸出企業が業績を伸ばしたことは言うまでもありません。
そこに異次元の金融緩和に取り組みました。お金が市場に注入されたことから金融機関にお金が回り、これらの企業を株高に誘導しました。ただ金融機関にお金がダブついたのですが安全な貸付先が少なく、結果として国債を購入することで、資金は再び日銀へと還流することになりました。日銀は日本企業の株を購入することで、現在に至るまで株価を維持しているのです。
日銀の金融緩和政策の期間、通貨発行高はそれ以前から1.6倍へと膨れ上がっていますから、貨幣の価値は約60パーセント切り下がっていることになります。つまり金融資産価値は約60パーセント目減りしていることになります。個人で金融資産1,600万円を所有している人の資産価値は、実態として1,000万円の価値になっているということです。
このことに余り気づいていないのは、物価が上昇していないからで、金融緩和によって知らない間に個人金融資産の価値は目減りしている現状があります。
投資家が土地や株に投資しているのはお金の価値が減少しているため、モノに変えて防衛しているのです。土地が上昇しているのは行き先のない資金が流入しているためで、経済が回復しているものではないということです。但し東京都内の限られた区、その中でも利便性が高い土地、高い収益を生み出す土地だけが価値を高めているのは事実です。その場所の以外の土地が上昇しているのはバブル傾向にあり、決して実態経済が回復しているものではないことを認識しておきたいと思います。
日銀が金融機関を通じては国債を購入できるのは、個人の金融資産という裏付けがあるからで、結局、個人金融資産が担保となり日銀が国債を引き受けているという構図になっています。国民の金融資産を担保に差し出しているようなものです。
資産価値が目減りしていることに気づくのは物価が上昇する時になりますが、その時期は誰にも分りません。令和3年になるのか、来年になるのか、それとも数年先になるのか分かりませんが、やがて金融緩和のツケを国民が担うことになると思います。
ただどれだけ日銀が金融緩和をしても思った以上に円安にならないのは、ダブついている円以上にドルが弱いからです。韓国経済が弱いことを私達は認識していますが、そんなウォンに対してでさえドルの価値は切り下がっているのです。政府の方針として、円をドルに追従させる政策をとっているように思いますから、ドルと円は呉越同舟のパッケージのようなイメージです。
対ドルで円安に誘導しようとしているのですが、更にドルが弱いので誘導しようとするよりも円安に向かわないといったところです。
それでも円安に誘導するための金融緩和は続きますから、恐ろしいことに個人金融資産の価値はさらに目減りしていくことになります。金融資産は自分で守る必要がありますから、お金よりもモノに置き換えておくことも防衛策となります。ただ価値のあるモノが何なのかを見極める必要があります。一般的には良い物件や株、外貨などがあげられますが、そのモノに価値があるかどうか、素人が見極めることは難しいと思います。
ところでドルが弱いのは「ドル・原油」体制が崩れているからです。かつて金本位制の時代は「ドル・金」体制によってドルが覇権を取っていました。ところが1971年、アメリカのニクソン大統領が、金とドルの交換停止を含む一連の経済政策を発表したことで金本位制が崩れましたが、これをニクソンショックと言います。
アメリカの金本制とは、実際は「ドル・金」本位制で次の体制を指します。
- 金1オンス=35ドルとし、金と交換可能な通貨はドルのみとする
- ドル以外の通貨は交換比率を固定し、変動率は上下1%未満にする
この制度は各国の通貨の価値は一定額のドルに固定、つまり固定相場制であり、ドルをアメリカに持ち込めば必ず金と取り替えてくれるというものでした。
金本位制が崩れたのは、この1971年にドル発行高がアメリカの保有する金の量を超えてしまったため交換不可能の事態に陥ったためです。1971年8月13日、イギリスがアメリカへ30億ドルの金交換を申し出たところ、アメリカは交換できない状況となりました。そこで7月15日、ニクソン大統領は金とドルの交換の停止を発表して金本位制から変動相場制へと移行することになりました。
ところでニクソンショックはニクソン大統領の中国訪問による第1次ニクソンショックと「ドル・金」交換停止を発表した第二次ニクソンショックがあります。
ニクソンショックの後、世界的に石油危機が起こります。金本位制が崩れたことから、アメリカは金に代えて石油に価値を持たせることになりました。これが現在まで続いてきた「ドル・原油」体制で、ドルが覇権を握っていたのです。
但し2020年、原油価格が下落したことから「ドル・原油」体制も崩れてきたことから、金融体制は混とんとしている情勢です。日本政府は円安に誘導していますが、原油の裏付けを失ったドルの価値も下がることも予想できます。これから先、円安に向かうのか、円高に向かうのか予測が難しくなっています。そのため金融資産の一部をドルとして保有すべきか、それ以外に投資すべきか見通せないといったところです。