那智勝浦町立下里中学校に出向いて1年生と2年生の二学年の授業を担当させてもらいました。講義のテーマは「和歌山県の宇宙教育と上野精一さん」としました。
那智勝浦町でこの授業を行ったのは、令和2年度「『生きる』−偉人に学び、生命(こころ)を強くする−」を子ども達に学習してもらうことを目指した取り組みの一環です。また串本町と那智勝浦町で、スペースワンによるロケット射場が建設されていることから宇宙が身近に感じられる町であり、中学生に「宇宙」を身近に感じてもらえることを願ってのことです。
上野精一さんは故郷に「宇宙教育」の考え方を導入してくれた方であり、JAXA在席当時から「和歌山県に宇宙を持ってくる」ことに尽力してくれました。「宇宙教育」の土壌があったから和歌山県にロケット射場が誘致出来たものと、僕は考えています。その土壌を築いてくれた同人が上野精一さんですが、残念なことに事業化を見届けることなくこの世を去りました。
そこで現代の偉人として、上野精一さんの生き方を「宇宙教育」を通じて紹介することにしました。病の身を奮い起こして和歌山県に「宇宙」を実現させるために取り組んで下さった方の存在を忘れてはなりません。その情熱と行動力は素晴らしく、国を愛し、故郷を愛していたからこそ、日本の未来を担う場所として和歌山県串本町を訪れ僕たちに夢を語ってくれました。
このように、努力を惜しまず、未来のため、人のために、夢を次世代に残してくれた上野さんの生き方を次世代に伝えてきました。
授業で使用した「宇宙教育」をイメージできる写真は次の通りです。
JAXAから委嘱状を受け取ったメンバーとしての誇り。
「JAXAスペース・ティーチャーズ和歌山」の先生方の輝く瞳。
上野精一さんの写真を見て故郷の偉人であることを伝える。
太平洋が中心の地図と大西洋が中心の地図を比較して、視点を変えると発想も変わることを伝える。
灰色の月から見た美しい地球の姿から奇跡の星をイメージすること。
以上、5点の写真を生徒に示した理由です。
そして資料として伝えた言葉は次の二点です。
「我々は月を知ることで、実は地球について知った。遠く離れた月で親指を立てると親指の裏に地球が隠れる。すべてが隠れる。愛する人たちも、仕事も、地球が抱える問題も、すべて隠れてしまう。
我々は何と小さな存在だろう。だが、何と幸せなのだろう。この肉体をもって生まれてきて、この美しい地球で人生を謳歌することができて」
凄い言葉でしょう。人生を謳歌するとは嬉しいことだけを経験することではありません。楽しいことだけではなく、辛いことや苦しいことを経験して、それを乗り越えていくことが謳歌するということです。嬉しいこと、悲しいこと、辛いことがあって人生です。皆さんは、これから始まる人生を、本当の意味で謳歌してください。
「悲しい時、辛い時は顔を上に向けると、気持ちも上を向くでしょう。宇宙は人を上向かせます」
上を向くと元気になれます。下を向いていると気持ちも下を向きます。人は上を向くことで元気になれるのです。時には今日の宇宙の話を思い出して、お月様を、星座を見上げてください。
この言葉の意味を理解するには早い気もしましたが、中学生に伝えたい言葉として、この二つを選びました。
そして生徒達へのメッセージです。
和歌山県は自然と共にある素晴らしい県であり、那智勝浦町には神宿る那智の滝があることを誇りに感じてください。近くにあるものは当たり前すぎて有り難さを感じないことが多いのです。和歌山県が誇る世界遺産の中で勉強をしている、学校に通っていることを誇りに思ってください。
熊野の自然は神宿る場所であり、記紀の時代から神と人が共存してきた地域なのです。和歌山県は自然信仰の地であり、神仏を融合させた世界でも稀な地域です。そんな遺伝子を受け継いでいる和歌山県で暮らす私達が日本をリードしていくべきだと思います。
そのためには「自分だけが」「自分さえよければ」の考えはやめましょう。学校の勉強で一番や二番になってもそれだけでは尊敬されないことを知ってください。一番であっても他の生徒の相談に乗ってあげられる人、勉強を教えてあげられる人でなければ尊敬されません。社会は一人で回る世界ではないので、友達や職場の仲間と共に成長を続けられる関係であるべきです。学校の時から、友達に勉強などを教えてあげて欲しいのです。一緒に成長していくことこそ、自分が成長を遂げる方法です。みんなで勉強の成績を上げる。スポーツも上手になる。それがよい学校にすることであり、自分の成長につながることです。「自分だけが偉くなれば良い」そんな考えでは社会で通用しないことを知ってください。
僕にとって上野精一さんは和歌山県が誇る偉人です。授業で説明したように、上野さんの生き方を知るだけではなくて真似て欲しいのです。立派な人の生き方を知り真似ることで近づくことが出来ます。
皆さんには、困っている人を助けることが出来る。分からない問題がある友達に教えてあげられる人になってください。そうすれば自分が困っている時、周囲のみんなが助けてくれますし、応援してくれます。
最後にまとめをします。
1.今ここにあるものは、全て誰かが社会の役に立つと考えて創り出したものです。それらは突然できたものではありません。ロケットは思い描いてから10年後に現実のものになろうとしています。自分がやりたいことはまず思い描くこと。そして行動すること。先生や友達に相談して見ることも行動です。直ぐにできなくても継続していれば、現実は形になろうとしてくれます。
2.困っている友達や周囲の人を助けてあげてください。自分だけがよくなることはありません。助け合うことで仲間も自分も成長していきます。「自分だけ」と思っている人は成長できません。
3.故郷に誇りを持ってください。上野精一さんもそうです。素晴らしい先輩が故郷を守り築いてくれています。現代はみんなを教えてくれている先生や僕たちが社会を築いています。でも10年先、20年先はみんなが社会の中心です。偉人と言われる人の生き方を学ぶことは、自分のこれからの人生の道標になってくれます。次はみんなが故郷、和歌山県を発展させる順番が巡ってきます。
4.今日の授業でたくさんの言葉のプレゼントをしました。ひとつだけでも言葉を受け取ってください。これから生きていく中で、きっと役立ちます。
授業を聞いてくれた先生方にも感想を伺いました。「生徒だけではなく、大人が守るべきことを伝えてくれました」「分かりやすい言葉で、生徒に生き方を伝えてくれました」「生徒も真剣に聞いてくれました」などの感想を伝えてくれました。