活動報告・レポート
2020年11月23日(月・祝)
情緒
情緒

一昨日、11月21日の活動報告に「褒めること」を書きましたが、それと同じような音楽の話を伺いました。

かつてアメリカからプロのバイオリン奏者が日本に来て、バイオリンを習っている子ども達の練習を見に来たそうです。そのプロ奏者は、日本の子ども達はみんな真面目で技術レベルも高いと思ったのですが、同時に演奏を聞いて「情緒がない」と感じたそうです。

子ども達はそれまでのレッスンで技術の指導を受けているけれど、「情緒」について言われたことはなかったのです。「感情がない音楽は人を感動させることはできない」そのため奏者は「情緒」を持つことが必要で、「情緒」のない演奏は聞く人を感動させることはできないので、子ども達に「感情」を与えられるよう指導をすることにしました。

「日本には桜があるよね。春に咲く桜は奇麗でしょう。その桜が人を楽しませた後、春の風に吹かれて花びらが舞っている場面を、目を閉じて想像してください。緩やかな風に吹かれて舞っているところや強い風に吹かれて激しくたたきつけられている場面などが思い浮かべられると思います。花が風に舞っているシーンでもその人の体験や創造力によって違いますね。音を奏でる時、歌の情景をそんな場面のように自分が想像して、その優しさや激しさ、人を楽しませてくれる温かさなどを表現するようにしてください」と伝えました。

そして実践訓練として子ども達と一緒に「ブレーメンの音楽隊」の演奏をすることにしました。

プロの奏者は身体を揺さぶりながら左右、上下とリズミカルに歩きながらバイオリンを演奏して室内を歩きます。もちろん、その表情は「音楽隊」の行進ですから弾けるような楽しい表情、コミカルな表情になっています。

一方、子ども達は、恥ずかしいことや照れていること、今までやったことがないこともあり、ただ棒立ちで硬い表情で演奏して歩いていました。ただ立って演奏しているのと同じ状況だったのです。

プロ奏者は「さっき話したでしょう。街中を演奏しているシーンですよ。多くの人が皆さんの演奏を聴くために集まっています。どんな演奏をしてくれるのか楽しみにしてくれていますよ。みんなの演奏で観衆を楽しませましょう」と声をかけ、楽しく身体を揺さぶりながら演奏することを求めました。

表情と動きが硬かった子ども達ですが、リズミカルなプロの奏者に続いて歩くので、それを意識しながら徐々に歩き方が変わっていきました。少しずつ身体を揺らす動きや、演奏しながら微笑むことなどができるようになっていきました。やがて固かったバイオリンの音が、揺れるように賑やかに室内に響き渡っていきました。

子ども達は演奏することの楽しさを感じ、楽譜が表現して欲しい場面を想像することで、演奏が奏者にとっても聴く人にとっても楽しいものであることに少し気づいたのです。自分が想像した場面を表現することで、聴く人に同じ場面を伝えることができること。それが音楽の力でありメッセージを伝えることなのです。

その後、参加した子どもの一人に変化が現れました。それまでは親に言われるから練習していたのですが、それからは自分の意思で練習するようになったのです。そして楽しいから練習時間が増えて技術は上達、音で表現する力も伴っていったそうです。

「感情の扉を開くこと」。これが人に感動を与える力になります。日本人が失われている「情緒」こそ自らを感動させる源になりますし、人に感動を伝えられる力になります。

「情緒」は音楽だけではありません。ビジネスも政治も交渉も、良い成果を出すためには全て「情緒」が必要です。良い成果とは相手が納得して同意を得ることですから、そのために同じ感動が必要であり、そのためには「情緒」が必要なのです。

参考までに「情緒」とは、感情、思いと同じ意味ですが、気持ちが身体的な変化となって表れる状態に至ることを指します。感動や内心を身体で表現することが「情緒」なのです。