今回、秋に開催する学習会の打ち合わせをしている中で確認したことです。
主に学生を対象にしているので、単に出来事を伝えるのではなく時代背景や内心など、人を動かした動機まで講義をしたいと話し合いました。学習がつまらないと感じるのは、覚えることに集中させることやその意味を教えることなく「そうだから」という結果だけを示すことも原因だと思います。何よりも、伝える側の熱意が感じられなければ退屈することになるので、本当に学習してもらえる機会にしたいと思います。
「心に燃えるものがないと行動につながらない」。心に燃えるものがある人が行動する人なので、リーダーの立場にある人にはそんな心構えが必要です。同じ内容の話をしても、誰が発言するかによって聞く人への影響が異なります。子ども達に故郷の偉人の生き様を伝える学習会ですから、故郷の偉人の生き様と命を賭けた志などを感じ取ってもらいたいと思います。
単なる知識付与や知ることだけで終わらないようにしたいと思います。歴史や偉人を知ることは、そこに至るまでの行動とそれを成し遂げるための志など、内面を知ってもらうことが何よりも大切です。志こそ琴線に触れるものであり、心に突き刺さらないような学習は、心の変化や行動につながらないので効果がないと思います。
今秋の学習会は、故郷の偉人の生き様を伝えることを目的にしています。偉人とは古い時代の人のことを指すのではありません。今回、これまで何度も記していますが、現代の偉人として上野精一さんを取り上げます。上野さんは体調変化を感じ病院に行って、舌癌と診断された後も「やるべき使命があるから」と治療を半年も後回しにして、自分に与えられた役割を果たそうとしました。僕は、上野さんのその役割は他の誰もできないもので、歴史が与えたものだと信じています。
陸奥宗光伯が命を賭けて外交を行ったように、上野さんは命を賭けて宇宙開発に携わったのです。今日の和歌山県の宇宙教育も、スペースティーチャーズも、そしてロケット射場の実現も上野さんの行動と意思があったからこそ実現したものだと、僕は確信しています。
2年前の平成30年3月25日、和歌山市で上野さんにお願いして「宇宙」についての講義をしてもらいました。同年1月、講義の打ち合わせのため東京から和歌山市に来てもらった時、話し方が辛そうだったので、「講義は大丈夫かな」と思ったのですが、「僕のJAXAの最後の仕事として故郷である和歌山市で講演できることを嬉しく思います」と言って体調が優れないにも関わらず予定通り引き受けてくれたのです。
淡々と話す上野さんの最後の講義は今も覚えています。その時に招待した高校生達は、講義の後に挙手をしてたくさんの質問をしてくれました。舌癌の手術をした後なので、上野さんの応える速度は遅かったのですが、静かな言葉の中に心が燃えていることが分かるような回答でした。
まさか、それが最後になるとは思ってもいなかったのですが、命を賭けて私達や高校生達に、宇宙開発に賭けた尊い人生を伝えてくれました。これが講義であり授業だと思います。
学校の授業で毎回、命を賭けるようなことはできませんが、学生の心を燃えさせるような、自分もそうなりたいとワクワクさせるような講義と問いかけをして欲しいと思います。自分もそうなりたい。そんな憧れの存在、目指すべき人物像を示すことが教育だと思うのです。
令和の時代を生きることができなかった上野さんですが、共に宇宙教育に尽くした思い出と生き様、そして意志は僕に伝わっています。紛れもなく現代の偉人だと思いますので、江戸、明治に生きた故郷の偉人と共に、上野精一さんを学習会の主人公にすることにしています。
僕は小さい頃から伝記が好きでした。偉人の話を読むこと、学ぶことはいつだって楽しいことです。残念ながら小学生の頃に夢中で読んだポプラ社刊行の伝記はありませんが、偉人の活躍は心に残っています。そして伝記本ではなく、偉人と呼べる人に生前に出会えたことを誇りに思っています。