和歌山市内の少学4年生の生徒が、三学期の最終の授業で「夢」について発表するようテーマが与えられました。「夢」について、生徒は次のような発表をしました。
「僕の夢はプロ野球選手か宇宙飛行士になることです」。この学校での話を、生徒の母親が笑顔で話してくれました。
生徒が持つプロ野球選手の夢は、少年野球のクラブチームに入っていることから来たものです。もう一つの夢を不思議に思った母親は「宇宙飛行士の夢はどこからかな」と尋ねました。
子どもは「昨年(平成31年)、お母さんがJAXAの上野さんと会ったから」という理由だったそうです。平成31年3月15日、当時JAXAの上野精一さんが和歌山市に講演に来てくれました。その前年、上野さんに講演の依頼をしたことから実現したのですが、その時にお手伝いをしてくれたのがこの子どもの母親でした。
当時、僕は上野さんの病状を知らなかったのですが、上野さんの講演は生きている魂のようなものを感じるような素晴らしいもので、お誘いして来てくれた市内の高校生達は聞き入り、講演の後にたくさんの質問を講師にしてくれたほどです。
恐らく、講演会のお手伝いをしてくれた母親は帰ってから、上野さんが用意してくれたキーホルダーを子どもに渡して、今日の素晴らしい講演会の話をしたと思います。母親からJAXAのプレゼントをもらって、宇宙の話を聞いた子どもは宇宙に興味を持ったことでしょう。
一年経った今も、「宇宙」の話をしてくれた上野さんの名前は、子どもの心に残っていたのです。テーマが「夢」だったので、心にあることを話したのだと思います。
上野さんが講演で伝えた宇宙への思いと志は話を聞いた人に引き継がれていく。そんなことを感じました。やがて志は形になって表れていくことになります。この生徒の将来は分かりませんが、夢を言葉にしたことから動き出すことがあるかもしれません。和歌山市内の高校には缶サットの強豪校がありますから、そこに進学して宇宙工学の道に進むことも有り得ます。
上野さんが和歌山市内で講演してくれたことで、JAXAは遠い存在ではなくなり頑張れば届く範囲に入りました。そしてきっかけがなければ遠い存在だった宇宙の夢も近くなったのです。今から10年後、この生徒が成人する頃、この夢が実現している可能性が生まれたのです。そのきっかけは、紛れもなく上野精一さんの講演であり存在なのです。
志や思いは言葉として発した時にエネルギーを持ちます。この世界に誕生したエネルギーは消えることはなく、その形を変えながら動き続けます。同じ波長の持つ人の心に共鳴すること。言葉のエネルギーは人から人へと語り継がれていくこと。今回のように、「宇宙」というものが存在していなかった状態の心の中に生まれ、心の中で生き続けることもあります。
物理学で「エネルギー保存の法則」があります。これは、エネルギーが物体から物体へ移動したり形態が変わったりする時、その総量は変化しないという法則のことです。言葉のエネルギーも同じように思います。人が発した言葉はエネルギーを有しており、言葉は消えますが言葉のエネルギーは聞いた人の心に移動して、エネルギー量は変わっていないと思います。言葉を発した人から、その言葉を聞いた人にエネルギーは移動しているのです。
また言葉を聞いた人が他の人にそのことを伝えると、その言葉のエネルギーは伝達されます。こうして言葉は消えることなく人から人へ、心から心へ、志から志へと受け継がれていくのです。
上野精一さんの思いと志は多くの人に引き継がれていると思いますが、今回、母親から話を聞いて一人の小学生の心に残っていることを知りました。例えこの世での使命を終えたとしても、強い意思は必ず人に引き継がれるものだと思いました。発した言葉は伝えられ、言葉のエネルギーは引き継がれている。凄い発見に心は揺さぶられます。