JR福島駅前の再生を目指している福島市を訪問しました。中心市街地の再整備を計画し進めていますが、当局から順調に進展していることを伺いました。どの都市でもJRの駅前は賑わいがありましたが、都市の郊外化や車社会の進展によって駅前周辺の賑わいはなくなっています。県庁所在地の福島市も例外ではなく、JR福島駅前は昭和の賑わった時代の面影はなく閑散としています。
そこで福島県立医科大学の新学部の設置や総合病院の設置など、再開発に向けた動きが具体化しています。再開発計画の全てが決定しているものではありませんが、既に駅前の地権者の同意を得てビルの取り壊しやリニューアルに向けて準備が進められています。
通常JR駅前の地権者の同意を得ることは難しいことですが、福島市では全ての地権者の同意を得ていることから、再開発計画が進む土壌ができています。最大の難関である地権者の同意を得ているのですから、後は中心市街地の再生計画を策定するだけです。現在、市役所、地権者、市民の意見を聞きながら、どんな都市を目指すのか協議をしている段階だそうです。
ホテル、マンション、商業施設、コンベンションホール、市民ホールなどが一般的ですが、もう消費性向が変化している時代ですから、当たり前の商業施設を設置したとしても集客は見込めなくなります。大型の商業施設ができたとしても、品揃え、価格などでインターネット店舗と比較して優位性がなければ、駅前であっても集客はできなくなります。
そこで市民の意見を聞きながら計画案を策定しているところです。一例として県立医科大学の新学部の開学が予定されていますが、この校舎には学生食堂はありません。食堂をなくすことで大学周辺に学生が食事に出る環境を作ろうとしています。学生にとっては不便ですが、メニュー、価格、日によって違うランチをしたい学生にとって問題はありませんから、学生が街に出る機会を創出しようとしていることが分かります。
再開発が進展しているもうひとつの要因は、地元の開発事業者が協力していることです。自らもこの駅前の地権者のため周辺の地権者との話し合いをまとめ、市が開発計画を策定できる段取りを行っているのです。
地元事業者の協力と地権者の賛同こそ再開発に欠かせない絶対条件なのです。和歌山市に置き換えてみると、この点に物足りなさがあります。都市計画を担っている行政、地権者、事業者、そして市民の方々が「何としても再開発しなければ駅前再生は図れない」と思って真剣に取り組むことが必要条件です。
福島市の中心市街地再開発計画の考え方と進め方は、和歌山市にとっても参考になるものです。参考までに、福島市の人口は東日本大震災以降、増加していることを聞かせてもらいました。浜通りからの転入者が多いことが理由ですが、それだけではなく福島市に魅力があるから移転していると思います。
続いて下郷町を訪問しました。ここには観光地として名高い大内宿があります。江戸時代の交通の要所である宿場町でもあった大内宿の再生を図り、観光資源として活用しています。視察した今日も多くの観光客で賑わっていました。江戸時代の下野街道にあった主要な宿を平成の時代に復活させているのです。ここには42軒の家屋があり、その多くは茅葺屋根になっています。大内宿が忘れられた存在になっていた昭和の時代以降、大内宿三原則を守ってきた結果が現在につながっています。
売らない、貸さない、壊さないです。施主が家屋を守ってきたから400年も当時の姿が残っているのです。400年も続いてきたことが大内宿を価値あるものにしています。歴史に耐えてきたものは価値があるのです。
大内宿の皆さんは観光収入と共に、茅葺屋根職人として、茅葺屋根を持っている各地に仕事に出掛けているのです。仕事がある。それが居住と賑わいを創出するための条件です。観光以外の所得がある。それが大内宿の維持のための隠れた要素です。