視察の最終日は徳島県庁を訪ね、水素社会実現に向けた取り組みについての説明を受けました。地方発信の水素社会の実現を目指す政策により、2030年度の温室効果ガスの削減目標を2013年度比で40パーセントとしています。日本の削減目標は26パーセントですから更に高い目標を掲げて実現を目指しています。そのため「徳島県脱炭素社会の実現に向けた気候変動対策推進条例」を制定し、県民との約束として取り組みを開始しています。
その取り組みのひとつが「徳島県水素グリッド構想」の策定で、公用車への燃料電池車の導入を実現しています。既に6台を導入していますが地方自治体でこれだけの台数を導入しているのは徳島県だけだと思います。
また徳島県庁に「自然エネルギー由来・水素ステーション」を設置しています。この水素ステーションの特長は、県庁屋上に太陽光発電を設置し、そこで発電された電気を水素ステーションに送電し、水と水電解させて水素を発生させていることです。
このステーションの設置費用は約1億2千万円で、国の補助が8千万円なので徳島県の支出は4千万円となっています。担当者に聞くと「その気になれば導入は可能です」ということです。徳島県庁は南海トラフの巨大地震が発生すれば津波被害が想定される地域にあるため、水素ステーションの周囲は津波の侵入を防ぐために壁で囲んでいます。ですから津波被害想定地域でなければ、もっとコスト削減を図れることになります。
徳島県が本気で水素社会実現を目指している一端を見ることができました。
また徳島県では民間事業者も県の政策に同調して移動式水素ステーションを導入しています。事業者は四国太陽日酸株式会社で、移動式水素ステーションを所有し、本社と徳島県庁から400メートルの場所の二か所で水素供給を可能にしています。
移動式水素ステーションにより一日3台の充填が可能なので、徳島県内の燃料電池車を運転している人はここで充填をしているようです。充填性能は3分で5kgの水素を充填できるそうで、それだけで500kmから600kmの走行が可能となりますから、十分、仕事や日常生活で活用することができます。
徳島県が実施している「水素グリッド構想」の今後に注目したいと思います。徳島県は関西広域連合に参加している県であり、同連合が推進している水素社会実現に向けた取り組みをリードしています。和歌山県としても公用車の導入や水素ステーションの設置など、できることからこの取り組みを見習う必要があると考えています。
続いて香川県まで移動して丸亀町商店街を視察してきました。案内してくれたのは当初計画から参画している古川理事長です。
案内してもらって理解できたことは、商店街を再生した成功事例として有名な丸亀町商店街ですが、その本質は商店街再生とは違っていたことです。商店街の再生と共に住宅整備を行い、居住人口を増やしているところが着目点です。テナントの整備と住宅整備は再生のための両輪で、これが図れなければ商店街の再生はあり得ないということです。
つまり商店街の再生を目的としたものではなく、「年を取れば丸亀町に住みたい」と言われるような街を創ることを目指しています。そのためには快適に生活できる街にしなければならないので、ライフインフラの再整備を行うことで移り住む人を増やしています。
商店街でライフインフラの再整備として導入している機能は次のようなものです。
診療所、栄養士がメニュー作りをしているレストラン、介護施設、生鮮品の市場、子育て支援施設としての保育所、市民広場、温浴施設、映画館などです。ここで暮らす人は車に依存しなくても歩いて日常生活が快適になり、医療設備も配置していることから安心感もある街となっています。
現在、どこの地方都市でも同じ課題を抱えています。それは車が運転できなくなると生活することが難しくなるということです。郊外に住居を構えてしまうと、買い物、病院などは車で移動する必要があるため、高齢者にとっては不便な生活環境となります。
高齢者ほど商店街に近接している場所で暮らすことで利便性が高くなり快適な生活を過ごすことができます。丸亀町商店街は日常生活の快適性と共に、高齢時代に備えて医療や介護、一人暮らしとなった場合に備えてのコミュニティ空間やレストランといった機能を備えています。
商店街の再生ではなく住みたくなる街を目指した再生であることが、この商店街の先進性であり凄さです。
ところで丸亀町商店街は420年間も続いている商店街で、先人たちから引き継いできたその教えは、不在地主を作らないことだそうです。商店街以外の人に土地を購入させない教えを守ってきたことで不在地主がいない状況が守られ、現在の再開発を可能にしている要因の一つとなっています。
ところで丸亀町商店街の中に違和感のある場所がありました。ドーム広場と呼ばれる場所に高級ブランド店が並んでいたことです。グッチ、コーチ、ルイヴィトン、ティファニーなど超一流ブランド店が立地しているのです。不思議な光景なので質問したところ、「このテナントは三越が借りてくれている店舗です。三越が高級ブランドに声をかけて入店してもらっているのです」ということでした。中々真似ができないことをやって退けています。
再生の秘密について古川理事長は「官主導の商店街再生は必ず失敗します。民間主導でやることが必要です」と語ってくれました。全国の地方都市において、官主導で実質的に再生に成功した事例は、ないということです。
民間が主導した再生を目指すことが商店街再生のために大事なことですから、そんな人物が登場することが成功のための条件です。丸亀町商店街の取り組みは再生ではなく、住みたくなる街づくりであり、そのための住居と商店街の業種再編成という取り組みであることが分かりました。