平成23年3月11日に事故を起こした福島第一原子力発電所の視察に訪れました。この発電所は大熊町と双葉町の両町にあり1号機から6号機まであります。このうち1号機から4号機までが津波による外部電源の遮断と非常用電源が作動しなかったことから大きな被害を受けています。
今なお大熊町と双葉町に戻って生活が出来ない人がいることを考えると、起こしてはならない事故であることが分かります。そして廃炉という30年から40年もかかる工程を思うと、事故の後始末は、まだこれから始まるという状況だと言えます。説明してくれた東京電力の方から「東京電力福島第一廃炉推進カンパニーは、福島第一発電所の廃炉と被害を受けた皆さんへの損害賠償をするための会社です。利益を生み出さない会社なので東京電力が利益を得て、その利益を福島に回してもらって仕事ができる会社です」と説明してくれました。利益を生み出さないで損害賠償と廃炉を推進するだけの会社という響きは悲しいものがありました。
廃炉に関わる費用は約8兆円、賠償費用は約8兆円、除染は約6兆円、合計で22兆円もの費用がかかります。このうち東京電力は16兆円を負担することになりますが、想像もできない金額なので果たしてこれだけの費用を捻出できるのかと思います。東京電力では年間0.5兆円の収益を生み出すことが求められ、企業価値向上による株式売却収益も費用に充当することになります。経済産業省は「東電改革は福島復興、原子力事業、原子力政策の根本的課題である」と示しているように、福島の復興は原子力政策の今後の指標となりそうですから注目すべき問題です。
さて現場では発電所内の放射線量が低減していることから防護服の着用は不要となり、構内視察に際しても着衣している服で入ることが出来ました。そのためマスクも作業着へ着替えることも不要で、思ったよりも除染が進んでいると思いました。線量計を装着して入りましたが、退出時の数値は0.01マイクロシーベルトで、これは歯の治療で被爆する量と同等のもので、身体への影響は全くないというレベルでした。
作業者においても、発電所全体のうち95パーセントのエリアが一般作業服エリアになっていることから労働環境は改善されていることが分かりました。全面マスクを着用しているとお互いのコミュニケーションが取りづらく、作業効率も悪かったので一般作業服に変更なったことで随分環境は改善されているようです。
ところで福島第一発電所にカメラの持ち込みが禁止されていたので、実際の現場の様子を写真で伝えることは出来ません。しかし発電所構内に入ったことで感じることがありました。爆発事故を起こした1号機の近くまで接近することかでき、「あの現場」にいることを不思議に思いました。
事故の足跡は残っていますが、それは事故直後の光景ではなく作業が進展していることが分かる現場状況でした。現場に行くとあの時のままで留まっているのでなくて、着実に廃炉に向けた進捗をしていることが分かります。
現場を案内、状況を説明してくれた東京電力の方は「私達は事故の責任を負っています。現在もそうですが、廃炉は30年先、40年先のことになります。その時まで責任を持つことが会社の使命です。私はこれまで東京で勤務していましたが、その使命を負って福島に来ました。責任を果たす覚悟です」と話してくれました。
そして廃炉と言うと後向きの印象がありますが、わが国の原子力発電所の廃炉はこれから始まることになります。ここで得られる技術や経験、新しく開発するロボットやノウハウはこれからの廃炉の指針となるものです。わが国の原子力政策にも大きく関係してくるものなので、廃炉技術を確立することがわが国にとって絶対に必要なものです。
福島復興と福島第一発電所の廃炉作業が、わが国のこれからの進歩と歩調を合わせることになります。3.11は決して他人事ではなくて、日本全体で復興を支援していくものだと思います。このように現場に入ることで分かるものがありますから、これからを考えることのできる実のある視察となりました。