秋に和歌の浦アート・キューブで展覧会を予定している水彩画の玉岡さんを訪ねました。紀州ジャーナルの取材記事に関して、「これだけ取り上げてもらって嬉しいことです」と話してくれました。
玉岡さんは長年勤めた会社を定年退職した後、水彩画を習い始めました。定年して習い始めた時は初心者、今では水彩画の先生をしています。先生と言っても自ら進んで教室を開いているものではなく、玉岡さんの個展を鑑賞した方が「玉岡さんに水彩画を習いたい」と希望して弟子入りしているのです。
そんな希望があるほど、玉岡さんの水彩画は優しくて和ませてくれる作品なのです。秋の展覧会に出展する作品は100点で、ほぼ作品は完成しています。初期の頃の作品も出展する予定で、その理由を「習い始めたばかりの作品は見てもらうのは恥ずかしいのですが、最初は下手だったことを分かってもらえることで、定年してから何かを始めてもモノになることが分かってもらえると思うから出展することにしました。定年前後の人に観てもらって『人生にはやるべきことが残っている』と思ってくれたら嬉しいことです」と話してくれました。
玉岡さんは自らの作品展を通じて「人生はやりがいに満ちている」ことや「始めるのに遅すぎることはない」こと伝えようとしてくれています。そして始める勇気と継続することが結果を生み出すことを教えてくれています。
会社の定年という区切りの年になると「寂しさ」や「喪失感」を味わうと聞きますが、それはこれまであって生きがいという目標が失われることも原因だと思います。会社勤めイコール人生と思っている人が多いのは、その方達が仕事のプロだからです。プロであれば引退は寂しいと思うことは当然ですから、その後に何をすべきか分からなくて縮んでしまうことがあります。
社会の一員としての立場を失くしたことに取って代わるものを見つけることは難しいと思いますが、個人として作品を制作することや何かを達成できるモノを見つけられるなら、そこに違う喜びがありそうです。玉岡さんから伺う話や姿勢に接するとそう感じます。
玉岡さんが、展覧会用に描いたスケッチブックよりも小さなサイズの水彩画を見せてくれました。「このサイズだと1時間もあれば仕上げることができます。作品の出来としてはたいしたことはないですが」と話してくれました。拝見すると作品としての質は高く保たれ、たいしたものでした。13年描いてきた技術が頭と身体に染み込んでいるので、1時間で仕上げても13年分の蓄積があることが分かります。制作した1時間の背後には13年間という時間が積み重なっているのです。
費やした時間が作品になっていると思うと、秋に開催予定の玉岡さんの作品の見方が違ってくると思います。若い頃から始めたことでなくても、60歳を過ぎてから始めたことで個展や作品展を開催できると感じ、展覧会を鑑賞した人が「僕も好きなことをやってみよう」と思ってもらえるなら、玉岡さんが作品展を開催する意味があります。
玉岡さんの秋の作品展は、人生を感じさせてくれることになりそうです。
50歳を過ぎてから会社経営を始め、93歳の現在も現役の社長と懇談しました。まだまだ事業推進に意欲的で、建物の耐震化や外国人観光客向けの事業展開も行っています。その一環として、新規に飲食店を始めました。
「片桐さんも来てくださいね」と案内とメニュー表をいただきました。この事業意欲と前進する力に敬服しています。社長は50歳から会社を始めて43年が経過しています。50歳から起業したことも凄いのですが、43年間も経営者として第一線で活躍していることも凄いと思います。全国を見渡しても43年間も代表取締役社長を続けている人は、それほど多くないと思います。この凄さに接し、元気になる力、元気を継続する力をもらいました。
元気に人と接すると元気になります。梅雨の蒸し暑さも感じなくなります。ありがとうございます。