明日、11月5日は津波防災の日です。この日が津波防災の日に制定されたのは、安政南海地震が発生した日であり、濱口悟陵の稲むらの火が今も語り継がれていることから、私達が後世に津波防災を伝える日としてこの日に制定さています。これは平成23年6月に「津波対策の推進に関する法律」により、11月5日を津波防災の日として定められています。
この日を前にして和歌山県では津波防災講演会を開催しました。記念講演は、広川町語り部サークルの崎山光一さんと群馬大学理工学研究院の片田敏孝教授の二人です。
片田教授は津波防災の第一人者として国レベルの津波防災の取り組みに関わっている方で、有り難いことに和歌山県の津波防災にも深く関係してくれています。和歌山県が片田教授から直接、対策についてのアドバイスをいただけることや、今日のように講演を行ってくれることは貴重な時間であり、講演を聞かせてもらうことで、もっと強く津波防災対策について学ぶことができました。
講演から私が個人的学んだことについて触れてみます。
津波防災対策は行政で講じていますが、最終的に逃げるか逃げられないかは個人の問題に行き着きます。つまり人として逃げられない状況に立たされた時、どう判断するかは個人によるからです。具体的に記すと、もし年老いた母親が自宅にいて逃げおくれたとしたら、もし子どもが逃げていないのではないかと思った場合、自分ひとりで逃げることができるでしょうか。この人としての問題が、最終的に逃げるかどうか意思決定の時に立ち塞がります。
自分ひとりでも逃げるという判断ができるかどうか。難しい問題であり、ここには行政も自治会も関れないところです。人としての判断ですから、行政が行っている防災対策とは別次元の問題になります。そしてこの別次元の問題を含めて、和歌山県では実効性のある津波防災対策を検討していく時期にあります。
これまでと一歩進んで、両親や子どもの安全確保をした上で自分が逃げるという判断ができることを目指すことが究極の津波防災対策となります。その手段は難しいのですが、両親も子どもも津波が発生した時には、まず逃げるという行動を取るということを信頼できる状態にしておくことです。そのためには日常から津波防災対策に関して、自分ひとりでも逃げるというコミュニケーションを図っておくこと。家族で避難場所を決めておいて、災害発生時にはそこに逃げることを確認しておくこと。その行動を取ることを信頼すること。これが別次元対策として必要なことです。
津波防災対策は行政が方針を示してくれますが、行動に移すのは自分達です。万が一の時は行政の責任だというのではなくて、逃げること、自分も含めて家族の命を守ること自分の責任であることを自覚しておくことが実効性のある対策です。
子どもが逃げなくて良いと思っているのなら、それは大人が逃げないで良いと思っているからです。子どもは大人の背中を見ています。大人が率先して津波防災対策を普段から話し合い、警報が発令された際は逃げることを覚悟していれば、子どもは警報が発令された時は逃げます。
子どもが逃げないのは、行政や学校の責任ではなくて家族の責任だと考えて、日常から防災意識を高めあう関係でいたいものです。
そして津波防災対策を確認しあった後は、日常生活を楽しみ、何十年かに一度だけ襲ってくる津波が発生したその時は、その日その時だけ行動できるようにすれば良いのです。
そして自然災害は発生するのかという質問に対しては、常に「起こり得る」と答えます。自然災害の発生確率が低いとしても、津波や地震は必ず発生するものです。同じように隕石が頭上に落ちてくるかどうかという質問に対しても、「起こり得る」と答えることになります。確率が低くてもゼロではないからです。
でも起こり得ることと恐れることは違います。隕石が落ちてくるかもしれないからヘルメットを被って生活をする人はいないように、津波災害の発生を恐れて生活をする必要はないのです。自然の恵みと自然の脅威は同時に存在しているものです。
海に近い和歌山県は海からの恵みを受けています。逆に紀伊半島沖で津波が発生した時は海が脅威になります。海が脅威だからといって海を恐れて生活をする必要はありません。
日常は海の恵みに感謝し、万が一の時は海から逃げるという行動を取れると良いのです。
以上のようなことを学びました。津波防災の日に先立って学べる講演会に参加できたことに感謝しています。そして学んだことを文字で皆さんに伝えられることも津波防災対策であり、自ら行動に移しているということです。