活動報告・レポート
2013年9月4日(水)
無形文化遺産
無形文化遺産

京都府が和食をユネスコの無形文化遺産に登録する取り組みを行っています。日本が世界に誇れる和食を無形文化遺産として登録することで世代を超えた文化にしようとするものです。この取り組みを調査するために京都府観光課を訪れて説明を聞き、意見交換を行いました。

ユネスコの無形文化遺産とは平成18年に発効したユネスコの「無形文化遺産保護条約」に基づいて保護されているものです。その対象は伝統的舞踊、音楽や演劇、工芸技術など、放置しておくと消失するかも知れない大切な文化を危機から保護し、次世代へ伝えることを目的としています。日本では歌舞伎や京都祇園祭の山鉾行事など21件が登録されています。ここに文化としての和食を登録しようとする取り組みが行われているのです。

食分野に関しての無形文化遺産登録は世界で4件あります。フランスの美食術と地中海料理、そしてメキシコの伝統料理が平成22年度に登録されています。平成23年度にはトルコのケシケキの伝統料理が登録されています。

和食に関しては、平成24年9月に文化庁が日本の最優先審査案件に決定しています。平成25年11月上旬にユネスコ政府間委員会の補助機関による勧告があり、12月上旬に登録の可否が決定されることになります。

なお登録の名称は「和食;日本人の伝統的な食文化」としていいます。この和食として登録されることになれば、日本の伝統的な和食であれば京料理以外でもこの無形文化遺産に該当することもあり得ます。

その要件とは次のようなものです。

  • 多様で新鮮な食材と素材の味わいを活用したもの。素材の味わいを活かす調理技術や素材に合わせて発達した調理道具なども関係していること。
  • バランスがよく健康的な食生活であること。一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスがあります。そして「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現していることから日本人の長寿命と肥満防止に役立つなど世界に誇れるものとして発達しています。和食は「ダシの味」の文化でもあります。
  • 自然の美しさを表現していること。食事の場で自然の美しさや四季の移ろいを表現していること。季節の花や葉っぱなどを料理に取り入れたり、季節にあう調度品や器を利用することで季節感が楽しめるものであること。
  • 年中行事との関わりがあること。日本の食文化は年中行事と密接に関わっています。自然の恵みである食を分け合い、食の時間を共有することで家族や地域の絆が強くなっていること。

以上の要件が整うことが「和食;日本人の伝統的な食文化」となり、自然の尊重という日本人の精神を体現した食に関する社会的習慣としてユネスコの無形文化遺産登録を目指しています。

なお京都府のこの取り組みは平成23年度から開始していて、わずか3年でユネスコに申請されるという異例の速さで取り組みが進展しています。和食が世界の食の文化の中でも特筆される存在になることは嬉しいことであり、年内に登録されることを期待しています。

私からの提言は次の通りです。

  • 和食のイメージは会食であり、京都に代表される京料理のような食文化は日本中にあると思います。和歌山県にも優れて素材を活かした会席料理があり、和食の無形文化遺産として相応しいものもあります。広く全国の和食を無形文化遺産として取り扱うことで、この価値は上がると思います。
  • この食の無形文化遺産は和食というものをパリやニューヨークなどに輸出できることが好ましいと思います。和食という括りのものが素材、技術、調理人などと共に世界の都市で味わえるものであることも条件にして欲しいと思います。何でも和食だから無形文化遺産だと名乗られると価値は下がりますから、世界に輸出できるものであり、日本を訪れる観光客が「この和食」を味わいたと思ってもらえるものであるべきだと思います。
  • 和食の料理人が育ち難い環境にあると聞くことがあります。フレンチやイタリアンは調理学校で習い資金があれば独立も早いようですが、和食の場合は調理学校で習った後、日本料理店で修行する期間があります。皿洗いから始まり10年近く修行して一人前になれるとも聞きます。そこから独立するまでの期間もあり、若くして自分のお店を持つことが難しいようです。そのため和食に進む若い人が少ないので後継者の問題もあると思います。
    京都府が検討している和食のアカデミックな将来構想は的を得ていると思いますので、和食調理人の地位向上のためにも、登録された後も体系的な取り組みを期待しています。

以上のような提言を行いました。和食がユネスコの無形文化遺産に登録されることを楽しみに、そして期待しています。