742.就職戦線
 

平成22年に向けての就職戦線は厳しいことを伺いました。和歌山市内の学校の就職情報コーナーの壁を拝見したところ、企業からの求人票は思っていたよりも少なく、その上、県内企業からの求人は県外企業からのそれと比較して相当の差で少ないことに驚きました。

平成22年春の新卒者の就職事情は昨年よりも良くありませんし、過去と比較してもかなり厳しい状況のようです。「昨年同期と比較して仕事が決まっている生徒は半分ですね」と話してくれましたが、夏休み前に就職が内定している生徒は極端に少なくなっています。

進路指導室の壁には正規雇用とフリーターの比較表も掲示されていました。新卒で正規雇用に就く意識を持つようにと思っての指導です。

新卒の人に正規雇用を目指して欲しいのは理由があります。ひとつは生涯賃金に大きな差があることです。仕事に就いた当初は賃金格差を感じないと思いますが、一般的に正規雇用の場合は年齢と共に賃金は上昇カーブを描きます。最近は賃金が上がらない場合もありますが長期的な視点では、生活設計に沿って上昇カーブを描くのです。ですから新人の時は税金や社会保障、健康保険などの掛け金も引かれますから、手取り額は思っている以上に少ないのですが、実績を上げるに伴って、そして結婚や子どもの誕生など家庭状況に応じて手当は増加していきます。大手企業では、子ども進学の時期に差し掛かる頃に賃金は最大になるような給与設計をしてくれています。

このように正規雇用されると企業は家族共々面倒を見てくれるのです。そして生涯賃金においても、生涯フリーターの人と比較すると決定的に違ってきます。賃金が全てではありませんが、安定した生活であることが社会で役立つ活動をすることにつながります。自分の生活が不安定で社会貢献活動をすることはできませんから、安定した仕事をしている人が大勢いる地域が、社会が共生している地域に近いのかも知れません。

既にふたつ目の理由に入っていますが、生活の安定や社会貢献できる環境があることで安心できる人生を送れることです。安心感のある生き方と常に不安定な生き方では、人生で実現できるものが違います。仕事が目的ではなく、仕事を通じて社会で自分が何を実現させるのかが目的なのです。そのためには責任のある仕事を任されることが必要で、責任のある仕事を通じて自己実現に向かうことになります。

その日の生活に追われているのに自己実現ができているような人生は少ないと思います。仕事を通じて生活を安定させ、仕事を通じて社会に貢献できていることを実感しながら実力を身につけ、そして自己実現につなげられます。全てのサイクルは連携していて、何かが欠けても充実した人生ではありません。

最初が肝心です。正規雇用によって会社と先輩から仕事も生き方も学ぶことができます。そこから独立したり転職したりするのは大いに結構ですが、企業で新人という修行の期間は基礎として絶対に必要なのです。

そんな最初の段階において、就職事情が厳しくて正規雇用の道が開かれていないことは人を育ててくれる地域ではないことを意味しています。人が育つ地域に未来があるのであって、大切な仕事を生徒に提供できていない現状に絶句しました。社会に向かう第一歩に立っている生徒に心から「負けないで頑張って」と言いたくなりました。社会は人を大切にする方向に向かっていると思いますが、社会人になる前の人のことを考えていないような気がしています。社会のプレーヤーになっている人がルールを決定していることが、その要因かも知れません。

学校を訪ねて、先生と話をして大きな課題に直面しました。課題克服の必要性を痛感しました。


コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ