ハリウッドスターのトム・クルーズさんが2009年春の新作映画「ワルキューレ」の宣伝活動のため日本を訪れたようです。テレビで、日本でのインタビューの様子が放映されていました。
世界のトップスターの話ですから参考にならないと思っていたのですが、映画界に関係のない私達にとっても示唆に富んだ内容でした。
新しい映画の撮影に入る時は「いつもストレスを感じている」そうです。尤も、ストレスとは良い意味の緊張感のニュアンスがありました。新しい仕事は緊張感を持って臨むことが大切です。ある程度の緊張感を持つことで、仕事を疎かにしない気持ちになります。仕事や環境に慣れてくると緊張感は失われますから、新しい人との仕事を求めることや新しい事業を企画するなどして緊張感を保つことが必要なのです。
もうひとつ。撮影に挑む心構えとは「練習、練習、練習」だそうです。トップスターであっても撮影する際には練習が欠かせないのです。そして練習の意味はやや広く捉える必要があります。練習とは自分の演技の練習だけではないのです。画材に関係する資料や文献を探して読み込むことで、台本では分からない時代設定や登場人物の深層心理を把握します。そして史実に基づいて映画化したもので比較的近世のものであれば、その時代、その地域で、その事件に関わった人を訪ねて話を交わしたりしているのです。
今回の映画は「ワルキューレ」ですから、ドイツに行ってその時代を知っている生存者話しているのです。これも現場での大切な練習なのです。
単に台本を読むだけでは登場人物になりきることは出来ません。役を作るのではなくて役になりきるためには、登場人物が経験した最低限のことを頭に入れて演技をする必要があります。その経験は演技に出ることはないとしても、表情や言葉に厚みを持たせてくれる筈です。トップスターは練習によって登場人物に命を吹き込み、性格も経験も役になりきっているから素晴らしい映画に仕上がるのです。
確かに、借り物の人物のような演技をしている俳優が登場する映画があったとしても、観客は映画に入り込むことはありません。俳優が本物の人物を演じているからお客さんを呼べる映画になるのです。
比較することはおこがましいのですが、議会での一般質問も良く似ています。和歌山県議会の一般質問の時間は40分以内と定められています。一般質問はA4の原稿にして約8枚の量に過ぎません。その8枚を仕上げるためには、その何十倍もの資料を集めていますし、一般質問で必要となる事実に関わっている、会うべき人に会って話を聞いているのです。勿論、現場があれば現場も訪問しているのは言うまでもありません。
つまり言葉として表に出ない文字や経験の裏付けがあるから、40分の一般質問が可能となるのです。仮に8枚の原稿がその全てだというような一般質問であれば、中身の乏しいものになるのです。8枚の原稿の40分の一般質問の陰には、それに割く多くの時間、移動距離、資料やデータの調査が存在しているのです。イメージとしては原稿を1枚1枚書いたものを積み重ねて8枚にしているのではなくて、既に頭に入っている考えを十数枚の原稿に吐き出す感じがあります。そこから言葉を選び、削ぎ落として原稿を8枚に短縮する作業を行っているのです。
多分、映画と同じようなストレスを感じ、当日までに相当の練習を重ねて登壇しているのです。練習をした数だけ厚みが増していくような気がしています。
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