654.紀峰村塾の教え
 和歌山市内に山本文吉さんが主宰する紀峰村塾があります。何らかの事情で社会に適合し得ない子ども達を預かって、仕事を通じて社会貢献活動につなげる活動を21年間も実践しています。和歌山市内の山東地域の山中に塾は存在していて、現在ここで仕事をしている子どもは3人います。炭焼きや無農薬の野菜づくり、それに陶芸などを行って自分の力で生活しています。山中の空気が良い地域で、しかも「サクサク」と葉っぱを踏みしめて歩く山道は気持ちの良いものです。

 元学校校長先生だった山本文吉さんが学校長を最後に退職した後、この地を探して紀峰村塾を開塾、以降21年間に亘って子ども達の支援活動を行っています。ビニールハウスを改造した塾舎は全て手作りで不思議な温かみが感じられます。室内に入って最初に気付いたのが「ありがとう」の看板です。この美しい言葉は正面に掲げられています。ありがとうの感謝の気持ちを表しているこの建物には感謝の気持ちが充満しています。ここでは仕事の報酬を賃金と呼ばないで「ありがとう金」と呼んで対価として子ども達に渡しています。仕事の報酬はお客さんからの感謝の気持ちですから、お客さんが支払ってくれたお金は「ありがとう」の気持ちなのです。その気持ちを子ども達に伝えるために「ありがとう金」として渡しています。農作物や陶芸を作ったのは子ども達ですが、対人関係が苦手な子ども達ですから、これらの品物は塾をお手伝いしてくれている大人が販売の仕事を手伝ってくれています。

 塾生産の野菜などは無農薬ですから評判が良いのです。ありがたいことに直ぐに売り切れてしまう状態にあります。自然の中で育てた本物の品物の価値をお客さんは知っているのです。また平成21年の干支である牛の置物が飾られていました。実は山下清と呼ばれている塾の生徒が制作した作品で、もう買い手と行き先が決まっているそうです。地元の方達の支援する気持ちが伝わりますし、この作品も価値のないものではなくて本物を目指して作成された置物なのです。山本さんは「同情する気持ちで買って欲しいとは思わない」と言い切っています。同情ではなく作品の価値を認めて買ってくれる人を望んでいます。
 そして次の作品の構想は、もう寅年に備えています。

 もう一人の子どもは、笹の葉っぱで点てたお茶をいれてくれました。笹の葉を抽出したお茶は身体に良いそうです。塾の周辺で群生している笹のお茶は、最初は薬草かなと思いましたが自然の味がしました。お金のいらないお茶は、身体と健康に良いのです。
 この子どもは年月日を言うと瞬時にその日が何曜日か分かるそうです。そして二桁の計算も簡単に暗算できる能力を持っています。彼がいることで曜日が分かりますから、この塾ではカレンダーが不要なのです。信じられないような人間離れした能力です。

 ところで年内にどうしても紀峰村塾を訪ねたかったのです。和歌山シャンソン協会の表彰式で山本さんの活動話を聞いて、どうしても塾に行かなければならないと感じていたからです。山本さんに「行くよ」と約束していて、今日の訪問が実現したのです。山本さん曰く「今まで今度行くからと言った人で実際に塾を訪ねてくれたのは、あなたを含めて3人しかいないのですよ」と話してくれました。その気持ちは、口先では塾のことを褒めてくれていても、内心は所詮、他人事で関心がないからです。しゃべれる人は無数に存在していますが、実行に移せる人は少ないのです。

 山本さんが最も嫌いな職業人は政治家です。長い人生経験から、政治家は嘘や自己中心的、他人のことを考えない人が多いからだそうです。嫌いな職業人の金メダルは政治家だそうで、そのことは以前から本人に聞いていました。ですから政治家の訪問は歓迎していないのです。しかし私の訪問を歓迎してくれたことに感謝しています。山本さんからは「あなたは金メダルから外していますから、何時でも訪ねて下さい」と微笑みを添えて言葉を発してくれました。ありがとうございました。

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