563.美の姿
 イラクに対する日本の平和維持貢献活動についてです。イラクへの支援を民間企業が行った事例を伺いました。国際貢献活動には人的支援と物資支援がありますが、民間企業が担うことができるのは物資支援です。ある人、仮にTさんと呼びます、がイラクの子ども達が置かれた環境、それは勉強をするための文房具がないことを知り行動に移しました。

 最初に電話を掛けたのがコクヨです。コクヨに対して「イラクの子ども達のためにノートを贈りたい。ついては安く譲ってほしい」と依頼しました。コクヨの責任者は、Tさんの熱意と本気度に触発され、即座に「分かりました。送り先を教えて下さい」と支援を約束してくれました。後にノート1万冊が送られてきました。コクヨの社名は国の誉れからきているそうです。正に国の誇りのために支援してくれたもので、創業時の精神が脈々と受け継がれています。

 続いて三菱鉛筆にも同様の依頼を行いました。三菱鉛筆でも支援を約束してくれ、三菱鉛筆を送ってくれました。最後にサクラクレパスに依頼したところ、クレパスセットを送ってくれたのです。しかも三社とも、代金は受け取らないでイラク支援のために無償で文房具を提供してくれたのです。

 これらは熱意と本気が民間企業を動かした事例です。この話は余り知られていないと思いますが、これらの会社のイメージが格段に良くなったことは言うまでもありません。無報酬の恩を与えることは、当事者が言わなくてもやがて時代の伝説となって社会に浸透していきます。信用を確立するまでの時間は長く掛かりますが、このような話は信用を築いてくれる基になります。

 後日談ですが、Tさんが感謝状を贈りたいと申し出たところ、三社とも「それには及びません。宣伝もPRも結構です。製品を通じて国際貢献できただけで良いのです」と回答があったのです。

 さて日本からの贈り物は自衛隊に集められ空輸でイラクに運ばれました。イラクの子ども達に届けられ勉強のために活用されていることは言うまでもありません。将来、子ども達が大きくなってイラクの国を支えるようになった頃、小さい日のことを思い出す筈です。

 「イラク戦争のため勉強したくてもできなかった時、日本の国から文房具の支援を受けたお陰で今の自分がある」と思う人が必ず出現すると思います。そんな彼らの頭には、コクヨ、三菱鉛筆、そしてサクラクレパスの名前が刻まれている筈です。
 何か危機があった時、今度は彼らが助けてくれる日が来るかもしれません。それは何十年後ではなく、何百年後のことかも知れませんが、伝説とは、何百年後に何かを作動させてくれる力を持っているものです。

 国同士の関係はこうありたいものです。世の中、知り得ないことは伝えることはできませんが、知り得たことで誰かに伝えるべきことは伝わるものです。出過ぎずに謙虚であること。これが美の姿です。

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