560.メモの効用
 ある経験者は「最近の若い人は人の話を聞いてもメモを取らないので経験を伝達できない」と話してくれました。この方は手帳をいつも持っていて、手帳にメモ用紙を挟んでいます。大切な打ち合わせや心に響くことがあれば、直ぐにメモ用紙に書き込んでいます。一瞬で消え去る言葉を残すことで、それをヒントに何かに着手することができるのです。

 私も経験がありますが、どれだけ素晴らしい講演を聞いても、どれだけ役立つ話を聞いても、どれだけ感動的な演劇を見ても、言葉で記しておかないと、その素晴らしさや感動は消えてなくなります。直後の感動は二、三日後には半減し、一年後には記憶にも残らないのです。勿論、「あれは良かったなぁ」程度の記憶は残りますが、どこが良かったのか、どの場面で感動したのか思い出せなくなります。
 そんな時、言葉で記しておくと、何年経ってもその時の思いを取り戻すことが可能です。

 感情は主観的であれ客観的であれ、正確な言葉として記すことが唯一、その時の思いをいつでも取り出せる方法なのです。
 行き違いの多くは正確に聞きとっていないことやメモを取っていないことに起因しています。後で、「言った言わない」の水かけ論になることは良くありますが、それは記録も議事録も残していないからです。後になって、自分が思っていたことと違うと文句をいいに来る人の多くは、人が話すことの肝心なポイントのメモを取っていない人なのです。

 「その話はそう思っていた」、「そんなことは聞いていない」などは言い訳や謝った主張の常套句です。後になって不満を述べる人のその主張を裏付けるメモなどの証拠は、何も残っていないことが多いのです。

 まだ少ない経験からですが、話の論点をメモしている人は、きっちりと仕事をする人だと感じています。
 また為になる話を聞いた場合、メモした内容を自分で消化して、人に話すことで定着することが多いのです。インプットしたことは、自分なりの味付けをした上でアウトプットすることで自分のものになります。この場合でも、記憶の引き出しの元になるメモがあることが前提です。聞いた話の内容を頭にインプットしたと思っていても、思い出せないとアウトプットもできませんから役に立ちません。

 一番大切なもののひとつである就職に関する話し合いにおいても、メモを取る人は殆どいません。書類の書き方、条件、経営者側の考え方など、重要な説明であっても、メモを取る人は少ないのです。勿論、上手く進まなかった場合には、話の行き違いによって後にトラブルになることは容易に想像できます。

 たった一枚のメモが大切になる場合は他にもあります。それは確定申告での経験です。株式の売却によって利益を得た場合、購入価格と売却価格の差額が申告の対象金額となります。証券会社からの証明書類が揃わない場合、購入した時の金額を手帳などへメモ書きしていることが証拠として認められるのです。これも前段と意味は違いますがメモの力だと言えます。

 メモは記憶の引き出しであり、アイデアの素にもなり、証拠にもなり得るのです。少し手間がかかりますが、メモは後で役立つことは間違いありません。

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