502.人づくり
 全国を舞台に活躍しているMさん。たっぷりと時間を割いて、今までの人生を話してくれました。和歌山県を、そして国家を思う気持ちに感銘しました。国を創るのは人づくりから、地域を創るのも人づくりに尽きるのです。国も地域も、そして現在も、将来の繁栄も全ては人づくりなのです。特に子どもは将来を支えてくれる存在ですから、その基礎は子どもに良い影響を与えることです。

 子どもの教育は予防注射のようなものです。大人になって体験することは、子ども時代に体験した方が良いのです。大人になって初めて体験すると対処出来ないことでも、子ども時代に少しでも体験していれば、大人の常識と合わせて応用が可能です。つまり子ども時代の体験は予防注射なのです。免疫力を持っておくことで、大人になっても対処可能となるのです。大人が子どもを可愛がる余り何も体験させないと、危険を察知出来なくなりますし、加減も分からなくなります。現在の子どもの事件や大人になり切れていない人が起こす事件は、予防注射がなされていないことも要因なのです。

 またMさんは子どもに武術の指導を行っています。ここでは道場の清掃は子どもの役割です。拭き掃除の時に使用するバケツは、わざと少し穴のあいたものを使ってもらっているのです。バケツに穴があいていると水が吹き出しますから、子どもが可哀そうだと保護者が新品のバケツを持って来たのです。そこで不思議な光景が展開されました。
 穴のあいたバケツで清掃する子どもは、水がこぼれないように、いつもの通りテキパキと拭き掃除を行います。ところが新品のバケツを使う子どもは、忽ちのんびりと清掃を行うようになったのです。大丈夫だと言う安心感が、子どもの清掃意欲に影響を与えたのです。

 私達は常に子どもには安全と安心を与えたいと思っています。それは間違いではありません。しかし大人が、子どもが考える前に全ての環境を整えてしまうと生活力を奪っているかも知れないのです。バケツの話から飛躍するかも知れませんが、不完全のものを与えて自分で物事を考えることをさせることが生きていく上で必要なことです。満たされた状況から抜け出すことは難しく、まして飛躍することは困難になります。大人は経験がありますから、経験のあるものに関しては、ある程度の道筋や結果を予想することが出来ます。

 子どもが安全に良い結果を導くため、順番を間違わないための補助をしたくなりますが、与え過ぎると子どもは考えることを止めてしまいます。これでは生きる力を奪ってしまうのです。年齢や成長に応じて不完全なパズルを与えることで、子どもは自分の力で完成させるのです。完成したパズルを最初から与えると、考えることと組み立てる行為を子どもから奪うことになります。 

 子どもにとって考える力と行動する力は大人になるための、そして大人になってからも絶対必要な生きる力なのです。子どもに生きる力を与えるための教育と環境を与えることが大人の使命だと言えます。子どものことに関して、学校や社会に責任を押し付けてはいけません。家庭が、大人が、責任を持って子どもを育てることから始めたいものです。今の社会は子どもが創っているのではありません。現在の大人が創っているのですから、現在と未来への責任は大人が背負うべきものです。
 責任を回避する社会からは未来は見えませんが、責任を背負う社会からは確かな未来を見ることが出来ます。

 後日、Mさんは「君とは20年も30年も付き合いすることが出来ないのが残念です。もっと話し合いたいし伝えたいことがあるけれど、私の年齢からすると精々10年の付き合いになると思います。もし君が必要だと思うことがあれば、その間に伝えさせてもらいたい。いや、是非とも思いを伝えたいと思っています。」と話してくれました。
 限られた時間だから学べることがあります。素晴らしい出会いに感謝しています。

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