464.山本博司さん
 会社の先輩である山本博司さんが一年間の闘病生活を終え、平成19年10月にお亡くなりになりました。死因はリンパ腺癌。一年前平成18年6月、定期健康診断の結果、肺付近に影が映っていたので同年8月に精密検査を受けたところ、リンパ腺に癌細胞が見つかり即入院となりました。自覚症状が全くなく信じられない入院となりました。直ぐに退院できると思っていたのですが、治療は長期に亘ると聞かされ驚いたことを覚えています。お見舞いにも伺ったのですが放射線治療のため髪の毛と眉毛が全てなくなり、また貫禄のあった顔がほっそりとなっていることを懸念していました。

 そして先週末、山本さんの声を聞くために電話をしたところ、以前よりも元気な声で話し合えたため安心していたのです。10月15日には、電話での話し合いの結果などについて丁寧に自宅に手紙をいただきました。お礼状も書かない内に、また会いに行く時間も確保できない内に、本日お亡くなりになってしまいました。先週話した後、直ぐにもう一度お見舞いに行っておいたら良かったと後悔しています。

 その時の電話の内容は二点ありました。ひとつは、山本さんから最後のお願いと託されたことの結果報告についてでした。二週間前、山本さんから電話を受けました。「最後のお願いなので無理を聞いてくれないかな」と言うものでした。その無理とは自分のことではなく、知人に関してのものでした。自分が癌と闘っている時期なのに、他人のことを心配して何とか配慮して欲しいことがあると電話をかけてきたのです。私は「最後のお願いなんて言わないで下さいよ。まだまだ沢山無理を言ってきてくれないと困ります。早く回復してくれると信じていますから、最後のお願いではない依頼として聞いておきます。」と答え、上手く行くように手配をしたところでした。

 もうひとつの電話の用件は、Sさんご夫婦に子どもが誕生するかも知れないので生まれたら知らせて欲しいとの依頼でした。
 そして先週、その結果報告をさせていただいたところでした。最後のお願いの件に関しては「上手く行くと思いますよ。心配しないで下さい。」と回答しました。Sさんの件に関しては「男の子が無事生まれましたよ。本人は丁度いま、静岡から新幹線で帰っている途中ですから安心して下さい。」と回答しました。

 お分かりの通り、山本さんからの依頼はいずれも自分のことではありませんでした。最後まで他人のことを思いやることの出来る方でした。癌と最後の闘いをしている時なのに元気な時と全然変わらない姿に心から感動しました。
 その最後のお願いが、本当に最後のお願いになるとは思いもしませんでした。元上司の早すぎる死去に言葉はなく、受けたご恩を返すことが出来なくなってしまいました。今はただご冥福をお祈りするばかりです。
 そして山本さんがお亡くなりになった頃、神様の木と言われているナギの木をいただきました。ナギは熊野権現の御神木で、その葉は、笠などにかざすことで魔除けとなり、帰りの道中を守護してくれるものと信じられています。山本さんの生命を宿して我が家に来てくれたような気がします。このナギの木と共に更に成長することを誓いました。

 山本さんの奥さんは「人の生命は何時どうなるのか分からないものです。やりたいことは我慢しないで、やれる時にやるべきですね。」と語りかけるように話してくれました。
やれる時代にあっては恐れないで思い描いていることをする。これが生き方の基本です。将来に備えても大事ですが、将来は現在の積み重ねですから、現在を犠牲にしての将来はあり得ません。忽ち過去になっていく現在を大切にすることで、輝く将来が待っています。つまり輝く将来は待ってくれているものではなくて、現在を積み重ねた結果が輝くのです。
 明日を迎えられることがどれだけ素晴らしいものなのか。今生きていることに感謝しないとね。博司さんが語りかけてくれたようです。
 秋が深まりました。0時を過ぎた今も、外では鈴虫が命の限り鳴いています。

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