376.声を掛ける
 音楽家に聞くと、音楽を演奏する際、特に観衆の前では気合が入り過ぎて「やってやろう」と思うものですが、それでは良い演奏にならないそうです。演奏は一人の力ではなくメンバーや楽器と一緒に築き上げていくものですから、演奏前にメンバーに「頑張ろう」など一声を掛けることが良い演奏をするためには大切です。
 そして大切なことは、楽器にもやさしく「頑張ってね」と声を掛けることです。ピアノなどに声を掛けることで自分一人ではなくピアノと同化するような感覚になれば、素晴らしい音が弾けるそうです。ピアノに引っ張られるように演奏が進み出すと良い演奏会に仕上がります。
 ピアノなどの楽器に声を掛けることで自分の生命を宿らせ、同化することで気持ちも良くなるそうです。

 車の運転が大好きなこの音楽家の方によると、車の運転でも同じことが言えるそうです。車は単なる走る道具として扱うのではなく、一緒に道を走ってくれるパートナーとして捉えると、車にも声を掛けたくなります。雨の日だったら「雨で大変だけど、高速道路は気をつけて走りましょう」。遠出する場合なら「少し疲れるけれど一緒に行こうね」と声を掛けることによって、疲れないで気持ちよく運転することができ、目的地に着くことが出来ます。

 そして子どもです。子どもに声を掛けることの重要性は言うまでもありません。
 学校に行くため家を送り出す時は「気をつけていってらっしゃい」。帰ってきた時は「ご苦労さん。今日の学校楽しかった」など声を掛けることが子どもを育てる上で大切なことです。親子の適切な関係を築くことにも、子どもが元気に学校で過ごせるためにもなります。 朝、家を出る時に嫌な思いをしていては、学校での勉強や、大人だったら仕事に対して気持ちが乗らなくなります。

 例えば、朝から母親が子どもに対して「宿題やってないのにそんな態度で学校へ行くつもり」など言って送り出したら、子どもはその言葉に腹を立てて授業に集中出来なくなります。それどころか通学でもその一言が気になって交通安全上でも問題となります。 
 宿題を忘れて大変なのは、母親に言われなくても当の子どもが一番分かっています。悩んでいる時に追い討ちをかけられるような言葉を聞かされると、腹を立てている対象が自分に対してから母親に対してのものに変化します。そんな事態が何度も起きると母親への信頼関係が崩れていくのです。

 同じように、朝仕事に出かける人にとっても家から出る時の一言は大切です。「早く帰ってきて下さい」「仕事頑張って下さい」などの言葉を掛けられると、今日も頑張ろうと言う気持ちになりますが、「早く帰って子どもの勉強を見て貰わないと成績が落ちているわよ。子どもの面倒を見て貰わないと」などの言葉を浴びせられると、精神的にも車の運転をする人にとっては安全面でも問題です。
 一緒に活動する人や物に対して、声を掛けることの大切さが分かります。

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