316.退職の日
 毎年繰り返される3月末の光景。年度末に人事異動のある組織では、退職される方に辞令が交付されます。60歳での定年退職は間違いなく人生のひとつの区切りです。高度成長の時代を支え、日本を経済大国へと導いてくれたのが700万人の団塊の世代の皆さん方です。同じ年代が多いことは、即ち、世に出る競争も激しい世代であったのです。
 世代内での競争、社会に出てからは近い世代との競争、そして出世する毎に前後の世代との競争があり、それに打ち勝つことがひとつの目標となったことが、結果として日本を先進国中でもトップレベルに引き上げたエネルギーとなっていたと思っています。ただひたすらに今よりも先に進みたいと思う気持ちの塊が巨大な力となり、この国を引っ張る原動力になったのではないでしょうか。

 時代を支えた人達が退職する日は、いつもの一日とは違う時代の区切りを感じます。退職の日、人によって感想は色々です。
「ほっとした。後はゆっくりとしたい」
「数年前から今の環境と違うやりたい仕事を見つけたので、残りの人生をそれに取り組みたい」
「お陰さまで今までの経験を活かせる受け入れ先を与えてもらいました。自分の経験を若い人達に伝えたい」
「定年まで数年ありますが希望退職をします。実は子ども達に勉強を教えたいと数年前から思っていました。定年の60歳になってからだと再スタートを切るには遅いような気がしていたので、早めに退職して学習塾を立ちあげます。教えた経験?ありませんが子ども達に教えるのは夢でしたし、自信がありますので頑張ります」

 退職と言っても人生には実に様々な思いがあります。今までの経験を活かして後輩に伝えようとする人もいれば、全く今までのキャリアと違う道を歩き出そうとする人もいます。
 どちらも素晴らしい判断だと思います。競争社会の中、組織で生き残ってきた人達が目指す次の目標は、歩もうとする道は違っても同じものが見えます。
 それは、自らは第一線を退きますが、次の世代に期待して若い人を指導し育てることを目標としていることです。
 退職の日、退職する人は勿論のこと周囲の人にとっても寂しい思いはありますが、その中には希望がある退職を見つけることが出来ます。

 退職辞令が発令されたのと同じ日。中堅やそれに続く若い人達が、退職した人の穴を埋めるようにそのポストに就任していきます。二段階飛びで昇進した人もあり、社会の組織もポスト段階の世代に入っています。
 遠くから大河を見ているように大きな流れには変化がないように思いますが、中に入ってみると時代は変わっていることを実感出来ます。お互いが競い合うことでより高い位置を目指した競争の時代から、お互いが得意とする分野を奏でる協奏の時代に突入しています。

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