304.卒園
 卒業という単語はいくつになっても感慨深い言葉です。平成18年春も卒業式シーズンを終えました。和歌山市では平成18年3月の卒園生を送り出した後、在校生の終業式を終えると廃園になる幼稚園があります。この園において卒業の言葉は特別の意味を持っています。春からは新入生を迎えることはなくなり園舎もやがて姿を消すことになります。
 卒業には、春、桜、感激、希望、未来などの言葉が似合います。廃園が決定した幼稚園でも卒業が持つこれらの意味は変わりませんが、最後という意味も併せ持っています。毎年同じように繰り返される卒業式ですが、将来に亘ってここでは行われることはありません。

 しかし大切な思いではいつまでも残ると思いますし、今日までの日々は忘れられないものになります。自然に流れ出した保護者の皆さんの涙。通常の卒園式とは異なる保護者の皆さんの感情を受け取ることになりました。子どもと一緒の楽しい幼稚園生活を過ごす予定が突然、市の方針によって廃園が決定されたことにより幼稚園存続に向けた戦いの日々が続いたのです。せめて子どもが卒園するまで、せめて子どもが大きくなった時に小さい頃を思い出せるように存続させて欲しいとの願いがありました。
 人の感情には構いもしないで時は冷静に、そして確実に流れていきます。桜が咲きそして散る、また桜が咲き散っていく、それを何度か繰り返した後に巡ってきた最後の春。桜の開花が早まると予想されている平成18年、和歌山市の春なのに寂しい気持ちが宿ります。
 
 ただ4月になれば卒園生にも保護者にも新しい生活が待っています。季節は同じ春。入学式には散っている桜も、来年は小学校で桜を咲かせてくれます。希望がある限り桜の季節は繰り返されます。
 廃園となる西山東幼稚園。平成20年度には幼稚園と保育園の機能を併せ持った統合教育施設として西山東幼稚園と同じ地に蘇ります。
 廃園となる大新幼稚園。最後の卒業生が去った後、園舎は取り壊されますが、隣接する大新小学校の校舎が建て替えられ、大新の歴史はこれからも続いていきます。

 人は同じではいられませんし、まちも同じままで存在することはありません。形あるものは姿を変えて行きますから、歩んできた行程を良い形に統合しながらこれからの時代に合うように生まれ変わりたいものです。思い出を失う悲しみを経験した人は、二度と同じことを繰り返したくないと感じます。
 真剣に廃園問題に関わった人は、これから出会う事件には前向きに関わっていく姿勢を持ち続ける筈です。そして前向きに関わることで古い出来事から卒業し、卒業の後にも歩くべき道が続いていることを知ることになります。そこに自分の道があれば、やはり歩き続けることが人生を築いていきます。

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