和歌祭は1622年に始まった歴史ある祭で、江戸時代には日本の三大祭に数えられた程です。和歌山で長く栄えてきた祭が現代になって中断していたものを、和歌祭保存会が中心となって復活させています。文化が一度途絶えると再生させるのは本当に難しいことが分かります。踊り、歌、リズムなどが伝わっていないため、文献や古い記録ビデオなどを参考にしながら和歌祭保存会の会員が創造力を持って形を作っていきます。
地域に根付いた文化は記録されるものではなく人々の心に留まっているものですから再現する難しさがあります。そのため和歌祭保存会としては、和歌祭が後20年間は持つように形と体制を築き上げたうえで、次の時代に継承していきたいと考えています。
次の時代を背負うのは今の子ども達ですから、子どもが和歌祭に参加してくれるしくみを作り、地域も祭も支えてくれる存在になってくれる取り組みを行っています。
和歌祭を見学した人なら分かるのですが、現在の祭はリズミカルなものが多く歴史的背景のある和歌祭は一見地味に映ります。理由は1,000人規模の行列となること、約60種目の演舞があるため行進に時間がかかることなどが挙げられます。ただ歴史的な祭は平和の象徴的な要素と動きがある中で、
和歌祭は戦国時代の様相を動きの中に取り入れている動きがあり歴史的な祭としては派手なものなのです。現代の祭と比較すると地味に見えても、種目に注目すると静かな中にも動きがあることが分かります。
今後の課題として観光客に来てもらう対策が必要なことが挙げられます。現在の和歌祭のコースは、東照宮から片男波までの行進コースとなっていますが、この会場では安全対策上、観客の収容は2万人が限界となります。
祭は和歌浦のものではなく和歌山市全体のものですから市全域、そして全国から観光客に来て欲しいのです。観光客に来てもらえる和歌祭に仕上げることが地域活性化であり、江戸時代には三大祭として数えられた伝統的な祭を本当の意味で復活させることになります。祭りの格を保持するには観客を呼び込めることが条件で、観光客を呼び込めるとなれば予算面でも効果が期待出来ます。
和歌祭を継承していくための課題は予算と人材育成ですから、全国レベルの祭に復活させることでその課題は少しでも解消に向かいます。その意気を現すために、NPO法人紀州和歌祭伝承会を立ち上げて新たな活動を展開しています。
また全国から観光客に来ていただくために、和歌山市内のホテル関係者と協議を行い、来年度から和歌祭観覧宿泊プランの商品を提供する方向で調整をしています。観光施策は観光事業者と連携を取る必要が不可欠です。イベント実施主体だけでイベントを行い、仮に賑わいがあったとしても宿泊や飲食の増加にはつながらないのです。和歌山市観光協会のイベントが宿泊や飲食店の売上増加に直結していないのは、情報提供と連携が図れていないのが最大の要因ですから、民間同士の協議ではその課題をクリアするフットワークが軽い動きを見せています。
伝統的な祭の凄さを実感出来る事例があります。それはロンドン大学大学院の学生が、メールで和歌祭について研究しているので教えて欲しいと連絡があったことです。この学生は和歌祭のホームページを見て連絡をくれたので、イギリスの学生が日本の祭、それも和歌祭に注目してくれているのは喜ばしいことです。
その後、この学生は和歌山市に来て和歌祭保存会と話し合いを行い、和歌祭にも参加して帰国しました。翌年、和歌祭をテーマにした修士論文を完成させ大学院を修了しています。1622年からの伝統を持つ祭だけが成しえる事実です。如何に伝統を守ることが地域にとって大切なものなのかが実感出来ます。
このような事例に出会うと、地域に根付いた伝統を簡単に消し去る訳にはいきません。最低限次の世代に継承していくことが、伝統を受けついた者達の責任だと言えます。
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