本宮町山村開発センターにおいて、熊野健康村構想推進フォーラムが開催されました。この取り組みは県とNPO法人が協働しているもので先進的な事例です。
フォーラムでは、「熊野の魅力と未知なる力」の講演、熊野健康村構想調査事業報告、癒しの熊野ライブ、熊野ディスカッションで構成されています。
熊野ディスカッションでは、パタゴニアの藤倉克己さんをコーディネーターに、小学館の岩本敏さん、二瓶健次先生、タレントの中島史恵さん、泉正徳本宮町長、木村良樹和歌山県知事がパネラーとして参加しました。主な議論は次のようなものです。
小学館の雑誌にサライがあります。元気が高齢者を対象とした雑誌ですが、編集は非常に難しいそうです。
理由としては、それ(サライ)以前の雑誌を作る場合、自分が経験してきたことをテーマにして作れば良かったのに対して、サライは自分が経験したことのないことを表現する必要があるからです。事例を出すと、子供向けの冊子「小学校一年生」は編集者なら誰もが小学校一年を経験していますから製作は容易です。小学校低学年向けの「コロコロコミック」なら、自分が小さい頃に好きだった漫画の内容を思い描いて連載漫画を決めたら良いのですから、編集方針の決定は難しくありません。
それに対して、自分が未だ届いていない年齢の関心事の冊子を作ろうとすれば、積極的に人生を生きている人生の経験者に師事して学ぶ必要があります。このことで、岩本氏が過去持っていた価値観は完璧に崩れていきました。 |
(小学館の岩本氏による講演)
(癒しの熊野ライブ) |
(藤倉先生と岩本先生) |
それは若いことや新しいことには、それ事態にはそれ程価値がないと言うことが分かったからです。若いことが価値を持ち始めたのは明治維新以降ですから、約100年の歴史があるに過ぎません。富国強兵をスローガンにしていたため、それに沿うのは若い人だったため、若いことに価値があると言い始めたのです。
江戸時代以前は経験者の存在自体に価値を認めていたのです。それについて今でも、時代劇の台詞から伺い知ることが出来ます。 |
「お主、若いのぉ」などの台詞を聞いたことがありますが、これは若いことを褒めているものではありません。この台詞の意味するところは、若気の至りや経験の未熟さを戒めるものです。経験者が重宝され若いのは未熟で価値を認めていないことを示しています。
サライは発刊時から発行部数で3倍増、広告収入で5倍増となっています。これは元気な高齢者が増加していること、高齢者をマーケットに捉えている企業が多くなっていることを裏付ける数値です。
昭和22年の日本人の平均年齢は、男性が50歳、女性は53.9歳、今日では男性が78.4歳、女性は85.3歳ですから、30年程度寿命が延びています。高齢者が元気だからこそ、超高齢化社会を迎えようとしていることに気付くべきで、そこをターゲットにすることが先進的な取り組みと言えます。旅行にも行けないような弱った高齢者が増えているのではないのですから、高齢化社会の意味を取り違えてはいけません。 |
(二塀先生と中島さん) |
元気に活動している高齢者は経験を持った上で、アクティブ志向だから尊敬されるべき存在です。かつての若者が欲したものは、万年筆や手帳、スーツなどでした。それらは格好の良い大人の象徴でしたから、当時の若者は早く大人として認められたい気持ちを持っていたため大人が所有す物を欲したのです。
それに対して現在は、大人になりたくないため10代20代の若い人達が好む物を大人が購入しています。若く見られるための商品を買う行動に走っていますから、その結果ロングセラー商品が無くなっています。大人の象徴として認められるものが現在も支持されていればロングセラー商品となりますが、現代社会では商品の寿命が短くヒットはしても、短期間で市場から姿を消し去るものが多くを占めています。
若い、つまり未熟な大人が市場の中心となる限り、息の長い商品の出現は難しいものです。しかし本物はロングセラーになります。 |
(泉本宮町長と木村知事) |
熊野の価値は世界の先進事例、模範になるべきものです。超高齢化社会においては、元気な経験者が求めるものは本物ですから、熊野から発信し提供するものは受け入れられます。手間隙をかけること、無駄を楽しむことで文化となりますから、熊野文化となるものを築きたいものです。
熊野が超高齢化社会に通用する価値観を持った地域になれば、世界で最先端を走る地域として熊野の存在価値は高まります。熊野が取り組もうとしている計画は、世界中にモデルがないのですから、熊野の取り組みそのものが他に例を見ないものとなっています。後世から、成功事例となるのか反面教師として捉えられるのかは、現在熊野に関わっている人達の取り組みにかかっています。
今日のゲストは各界のリーダー達です。本来、そのノウハウを獲得するためには、お金を支払って講師として来てもらう程のものです。マーケット拡大や市場調査をしている東京圏の企業は、真剣に今日の講師達の話を聞いています。今日の参加者に対してもビジネスのヒントを沢山披露してくれました。
雑誌の成功、日本市場での成功を体験してきた方達だからこそ、成功体験を話すことが出来ます。これを聞くだけに終わらせるのか、活かすために行動するのかで熊野の将来は変わって来ます。特に藤倉さんはロサンゼルス在住ですが、この熊野健康村フォーラムに参加するために、ロスから東京、白浜、本宮に来てくれ滞在してくれたのです。
終了後、直ぐにロスに帰りますから本当に頭が下がります。藤倉さんは、熊野のブランド化に役立つのであれば役立ちたいとの思いから、居住地のロスから熊野へ来てくれました。この熱い想いをしっかりと受け止める必要があります。
フォーラム全景 |
○講師経歴
岩本 敏 氏
小学館 情報誌編集局 執行役員(兼)チーフ・プロデューサー 『サライ』『ラピタ』『BE-PAL』担当。『ビックコミック』『FMレコパル』『少年サンデー』編集部を経て、 1981年『BE-PAL』創刊にたずさわり、同誌デスク、同誌編集長歴任。1986年 『BE-PAL』編集長就任。その後『GORO』編集長経て、1991年『サライ』編集長就任。1996年 第三編集部部長に就任。『サライ』編集長を兼務。1998年 7月より現職情報誌編集局 チーフ・プロデューサー
担当雑誌=『DIME』『サライ』『ラピタ』
藤倉 克己 氏
パタゴニア日本事業部長マーケティング・ディレクター
ソニー、ボルボを経てパタゴニア(カリフォルニア本社)に採用。パタゴニア日本支社設立と同時に日本支社長に就任。パタゴニア米国本社に戻り、日本事業部長、及びマーケティング・ディレクターに就任、現在に至る。
パタゴニア勤務と並行して、個人として日米企業のマーケティングコンサルタント、ブランディングコンサルタント業を運営。
中島 史恵 氏
1994年の第1回「シェイプUPガールズ」オーディションでグランプリを受賞。スポーツイベントやバラエティ番組で活躍するほか、女優業にも取り組む。
現在は旅番組などにレギュラー出演中。年齢を重ねるごとにきれいになりたいと始めたヨガが特技で、サッカーヨーロッパ選手権「UEFA EURO 2004」WOWOWメーンサポーターとして、イベント、番組等で活躍。第2回日本DVシネマ大賞最優秀主演女優賞受賞。
二瓶 健次 氏
前国立成育医療センター精神内科医長
東京大学小児科、自治医科大学小児科を経て昭和54年から国立小児病院神経科医長。
平成13年から国立成育医療センター神経内科医長、平成16年3月退官。現在、身体障害者療護施設「横浜らいず」診療所長、白百合女子大学非常勤講師、早稲田こどもメディア研究所研究員。包括的医療、バーチャルリアリティーの医療への応用、代替医療に関心をもつ。
熊野健康村構想調査事業報告は次の通りです。
2004年7月に「紀伊半島の霊場と参詣道」が、わが国で12番目の世界遺産に登録されました。世界で2例目に道として世界遺産となった熊野古道は、古(いにしえ)より蟻の熊野詣でと呼ばれるほどに人々を魅了してきた巡礼道で、世界遺産登録をきっかけに今まで以上に多くの人が訪れるようになりました。
一方、国民の健康への関心が高まる中、公園や歩道などでウォーキングを行う人が増えてきました。また、寝たきり防止のために積極的に運動を取り入れようとする動きも始まっています。
この様な背景のもと、熊野古道の自然環境や立地条件等に着目し、語り部とともにゆっくり歩く熊野古道ウォーキングが及ぼす心身への健康効果を明らかにすることで、健康増進活動や観光振興にウォーキングを活用することを目的とし、基礎的な調査を行いました。
今回の調査は、熊野古道の目的地である熊野本宮大社や温泉、自然にあふれた熊野本宮地域をモデルとし実施しました。
本調査には、地元本宮町及び和歌山市内の方々に協力して頂き、熊野古道ウォーキングを実施。また、反復による加重効果を検証するため、ウォーキングを取り入れた2ヶ月間のトレーニングを行いました。
本宮町内の熊野古道を3コース設定し、比較対照として、和歌山市内の平坦な公園コースでの調査も実施しました。
【1回のウォーキング効果】
11月下旬から12月中旬。参加者数は延べ120名程度。
1回の熊野古道ウォークの前・中・後で、@生理的効果(免疫能、内分泌代謝、自律神経機能)、A精神的効果(思考)、B心理的効果(感情)について調査しました。
【2ヶ月トレーニング効果】
12月中旬から2月中旬、参加者数は39名。
2ヶ月間にわたり、熊野古道ウォークと平地公園ウォークをそれぞれに、概ね週3回、1回あたり60分間、習慣的に実施してもらい、2ヶ月前後で@生理的効果、A心理的効果、B行動変容について調査しました。
●健康への影響(安全性)
今回調査した熊野古道は、身体に適度なアップダウンで、心臓や血圧などへの生理的負担が少なく、年齢に関係なく、安全に歩くことができるコースであることがわかりました。
●環境
本調査による熊野古道11箇所の紫外線量の平均は、市街地(日なた)に比べわずか50分の1程度であることもわかりました。
●特徴的な生理的効果
1回の古道ウォークを行った結果、ストレス軽減、免疫力増加、リフレッシュ、足の筋肉への適度な刺激など、多くの効果が確認できました。特に、和歌山市内からの参加者の免疫力は、熊野本宮へ到着した時点で増加していました。
●精神的・心理的効果
古道ウォークにより、心理的ストレスの軽減、気分の改善効果が見られました。
●2ヶ月の運動効果
2ヶ月間にわたり古道ウォークを行ったグループは、内臓脂肪の減少、心肺機能の増加、下肢筋力の増加などの改善効果が得られました。これは平地の公園でのウォーキング効果を上回るものでした。
折角歩くのであれば、からだやこころにもよい効果を手に入れたいものです。また、観光についても,単なる物見遊山でなく、心身のリラックスや健康づくりになれば、魅力も増します。
悠久の歴史、雄大な自然、温泉、食材、なんと言っても木々に囲まれた熊野古道を楽しむ時間。
熊野古道を歩く旅は、身体への負担は少なくても、適度なアップダウンや凹凸のコースにより、適度な脚への刺激となります。さながらオープンドア(自然のなか)のフィットネスクラブといえます。
ゆっくりと歩いても運動効果があり、また、ゆっくり歩くことでさらに安全性も高まります。また、こうした脚筋力を鍛えることは、寝たきり防止にもつながることですから、旅を契機に運動を始めてみる、そんな気づきの場所として新しい付加価値を高めていきます。
そして、歴史散策や自然観察をしながらの古道ウォークは、最近注目されている「脳活性」にも効果があることがわかってきました。
この様に本調査を通して、「熊野古道を歩く」ことは心身を健やかにすることが立証でき、熊野本宮地域が「健康を意識した観光」に適した場所であることがわかりました。
終了後、講師の方々と登った本宮町にある七越峰からの光景は最高のものでした。世界を巡っているパタゴニアの藤倉さんをして、今まで見た景色の中で最高のものだと言わしめた程です。七越峰から見る「はてなし山脈」の半分が雪景色で半分が晴れ間の光景は、地元の人でも珍しいと言うものでした。 |
(七超峠にて講師の皆さんと一緒に。) |