対談コーナー
木村 竹志さん
対談日:2005年1月31日
片桐
木村さんは高校野球から社会人野球、プロ野球に至るまで、全ての段階において実績を残していますが、その秘訣はどこにあるのでしょうか。
木村
秘訣と言えるか分かりませんが、熱意と目標を持って諦めないで追いかけることです。高校野球はわすが3年で甲子園出場を果たさなければなりませんが、その3年間熱意を持ち続けられることが甲子園出場するための条件です。熱意を持っていれば少々の困難は克服でき目標達成することが出来ます。社会人野球も3年間の経験でしたが、プロ野球に入るまでに日本一を目指そうとする熱意を持ち続けた結果が出たのです。
片桐
木村さんと言えば25年前の昭和54年8月を未だに忘れることが出来ません。夏の甲子園大会3回戦、夕方に少しだけ見て、何か用事を済ませた後、夕食時テレビを見ると未だ延長で試合が続いていたので、その後釘付けになって見たことを覚えています。和歌山代表の箕島高校を応援していた私は、カクテルライトのまぶしい中、奇跡の瞬間を二度も見ることが出来ました。
木村
あの試合のポイントは、延長16回の星陵高校の攻撃を1点で食い止めたことです。2点目は絶対に与えないという気持ちを持ち星稜高校の攻撃を断ち切ったので、16回裏に森川選手のホームランで同点に追いつけたと思います。絶対に追加点を与えない気持ちで投げピンチを切り抜けました。人生でも苦しいことに遭遇した時、1点を与えてしまうと気持ちが切れてズルズルと後退することがありますが、そうなった状態から盛り返すのは至難の業です。少しハンディを背負っても、そこで食い止めて気持ちを切らないようにすることで次のチャンスは必ず訪れます。
片桐
箕島高校と星陵高校の試合は、高校野球史上最高の試合と言われています。延長12回表に1点を取られた箕島高校はその裏ツーアウト。後がない場面で嶋田選手が「ホームランを打ってきます」とベンチを出てホームランを打って同点。延長16回、再び1点をリードされた箕島高校は、またもツーアウトランナーなしの場面。森川選手が打った飛球はファーストフライ、それを一塁手の加藤選手が人工芝に足を取られて落球、その直後森川選手がホームランを放ち同点となりました。再試合の色が濃くなった延長18回裏、箕島高校上野選手のヒットでサヨナラ勝ちとなりました。スコアは4対3でした。結果として箕島高校は春夏連覇を果たしました。
その人が生きた時代によって、どの試合が最高だったか、どのチームが最強と思うのかは違います。少なくとも言えることは、同時代を生きたチームの印象が最も強いのではないでしょうか。現在の世代なら松坂投手のいた横浜高校を挙げるでしょうし、少し前なら桑田投手と清原選手のいたPL学園を挙げるかもしれません。
私の場合は文句なく、石井投手と島田捕手のいた昭和54年の箕島高校を挙げます。同世代の二人は私達世代の象徴でまぶしい存在です。わすが18歳にして他の誰も体験できない舞台で最高の試合を演じたのですから。
木村
あの試合の時の気持ちを今でも持ち続けています。若い時に体験したことから人生で逆境に出会った時も気持ちで乗り越えています。次々に訪れる困難に対して逃げないで挑戦する姿勢を持つことが何よりも大切です。当時の箕島高校尾藤監督は星陵高校とのこの試合を、私達にとっては宝物のような試合です、と話しています。人生は宝物を探す旅のようで、何歳になれば答えが見つけられるのか分かりませんし、見つけられない人もいる筈です。若くしてその宝物を手に入れて人生の旅において持っていられるのは幸せなことです。
片桐
平成16年末に延長18回を戦った石川県星陵高校と箕島高校のOB戦がありましたね。
木村
その後の人生がどんな経過を辿ったのかは別にして、最高に輝いた瞬間を持っていられる人生はそれだけで価値があります。人は輝ける瞬間を追い求めて生きているのですから。石川県の野球場に行って驚いたのは、応援団もチアガールも当時の人だったこと、プラカード嬢も当時の女生徒だったことです。観客も全国から集まっていて懐かしくもあり注目された一戦でした。
あの時の星稜高校のプラカード嬢は現在結婚して和歌山市加太に住んでいるのですが、これも何かの縁ですよね。
片桐
木村さんは野球を通じて子ども達を成長させようとする取り組み「夢クラブ」の設立や、バットの材料となるアオダモの木の植樹、アジアの少年野球チームとの交流など、裾野を広げる活動を展開していますね。
木村
一昨年、和歌山県新宮市にアジアの少年野球チームを招待し国際大会を開催しました。
新宮市では、元西武ライオンズの小田投手が少年野球の指導を行っていることから連携をしたものです。大会では約400人が新宮市にやって来て宿泊したように、地域振興面でも効果がありました。少年野球では日本とアジアとの交流は盛んで、平成16年夏だけでも200チームが台湾遠征を行っています。お互いが行き来することでレベル向上と地域活性化が図れ、文化の理解にも役立っています。
スポーツの交流により間接的な効果が発生しています。
台湾から何度も来ている指導者の中には、日本に来て和歌山以外に行ったことがない人もいます。
それ程、地域として交流することで親密度は高まります。
片桐
今年も少年野球大会を開催すると聞いていますが。
木村
平成17年8月6日から8日の3日間、和歌山県下16会場で少年野球大会を開催します。子どもと一緒に保護者も和歌山に来てくれますから経済的効果もあります。何よりも野球文化を和歌山が持っていることを県外の人達にアピール出来ることが大きな利点です。プロスポーツや少年へのスポーツ指導で、和歌山に住む人の意識を変え地域活性化につなげていきたいと思っています。
片桐
木村さんが甲子園で春夏連覇を果たした昭和54年から25年後の現在、その木村さんと一緒に夢を追いかけることの出来る幸運に遭遇しました。それはプロ野球独立リーグの誘致活動です。同世代で最高の経験を積んできた木村さんとなら、あきらめなければ新しい夢をつかむことは可能だと思っています。熱意を持つこととやり方によっては、和歌山に独立リーグを持とうとする夢が実現する可能性が高まります。
木村
各地で欽ちゃんのチームや青島健太さんのチームなど野球チームの設立が相次いでいます。その最終目的は独立リーグ設立のような気がします。四国独立リーグは4月29日に開幕する予定ですが、運営方法や観客動員数などの状況を全国の関係者が注目している筈です。ある大手企業では社会人野球を持っていますが、運営費として億単位の費用を要しているため見直しを図っているようです。今までは企業の宣伝広告として会社への帰属意識醸成や団結のために運営する利点があったのですが、収益重視の社会背景からリターンを追求する方向に転換する予定です。社会人野球よりも観客が見込める独立リーグに参加する方が、話題性、収益性からもメリットを感じているようです。
石毛さんが先駆けた独立リーグですが、江本さんも新団体で新しく参画する意向を持っていますし、各地での動きも目立っています。各地域とも、スポーツによる地域活性化や経済効果を見込んでいます。
片桐
和歌山でも何をすべきか、今から検討する必要があります。過去、新規施策を取り入れるかどうかは他都市の動向を眺めながら考えていたため、世の中の流れに敏感でなくなっています。アンテナを張っておかないと人脈が築けないし感性も鈍くなりますから、どうしても鈍感になります。それが体質となり地方自治体の文化になります。まだ盛り上がっていないから検討を行わないとするならば、一体いつ可能性を検討するのでしょうか。盛り上がってから、或いは参画する自治体が見えてきてからとするのでは、もう時期を逸したものになりますから、和歌山が参画する可能性はありません。平成16年度の国体では最下位、スポーツに関しての指数も低いことから、他都市に先駆けて検討を行い意思表示することが参画する唯一の方法です。
木村
和歌山県の野球文化の裾野とレベルは高いものがあり、決して他府県に負けてはいません。大学の強豪校である東北福祉大学の監督は星林高校出身ですし、高校野球の名門である宮崎県の日南学園の監督も和歌山県出身です。指導者も和歌山県から県外に流失しています。人脈と温暖な気候により、アマチュア野球のキャンプ地として誘致する可能性もある訳です。世界遺産の地で野球の試合をすることでも話題を提供できますから、和歌山県が持つ地域性と野球文化、地域資源を活用すれば独自のチームが出来ます。活躍した選手への報償として、有田みかんの提供や地元ホテルの宿泊券提供も実現可能ですから、地域性が発揮できます。
片桐
市議会でも取り上げた仮称黒潮リーグは、四国独立リーグや日本独立リーグ機構へ和歌山市が名乗りをあげるための提案です。プロスポーツによる地域活性化は効果的です。和歌山市は文化やスポーツを楽しめる環境にありませんから、何とか実現させたいと思っています。
木村
私もアメリカの独立リーグに三ヶ月参加した経験があります。アメリカではプレイの他に、観客を楽しませる工夫をしています。ボールボーイの変わりに豚が審判にボールを持っていく、イニングの途中でダンスタイムや地元の音楽演奏を行うなど、地元の球団意識を植え付けています。独立リーグでも観客は入っているところに、日本で導入する上でのヒントがあります。和歌山でも皆さんにチーム会員になってもらうことや、地元高校の有力選手が独立リーグ進むことで地域での一体感が醸成されます。
片桐
和歌山県では、県営紀三井寺球場にナイター設備を設置する方向で進んでいます。最短なら平成17年度予算化が図られ、平成18年度からナイター開催も可能となりそうです。アマチュアレベルの照明設備なのでプロ野球の開催は難しいのですが、仮にプロ仕様としても和歌山市の市場規模では公式戦の誘致は難しいようです。
木村
プロ野球が来ることが最高のパフォーマンスなのですが、それが無理なら照明設備をプロ仕様にする必要性はないので県の姿勢は正解で、それよりも設備を活かす方法を地域として考えなくてはなりません。高校野球では活かせますが、それ以外の活用方法を考えることが地域としての課題です。平日に球場を活用でき人を集められる方法のひとつが、独立リーグのチームを持つことです。勿論、地域での受け入れ態勢や技術レベルによって動員力は異なりますから、チームを持つだけで活性化か図れるものではありません。二軍の試合で集客するのは難しい状況ですから、高校野球よりも少し上のレベル程度と予想される独立リーグでは、技術だけで観客集めるのは難しいのです。
片桐
地域活性化には経済的側面と夢の両方が必要です。経済だけを追求しても、一部に利益が集中するだけで地域としての盛り上がりにはなりません。イベントは一過性のものに過ぎないので、文化として後々地域に定着しません。地域色があり継続性のあるものを和歌山市に持ってきて、据えることが継続性のある地域活性化につながります。プロスポーツは地域活性化につなげることが出来ますから、誘致できると信じて呼びかけていきます。
木村
地域で受け入れてもらうことが地域活性化ですから、そのために野球教室を開催するだとか、地元小中学校に出向いて技術指導するなどの地域貢献活動をチームとして実施する必要があります。或いは和歌山出身の選手を集めたチームとしてサポート体制を敷くなどのチーム作りも必要です。和歌山では高校卒業後野球を続ける環境がないため、どうしても高校卒業後県外に行ってしまう選手が多いのです。でも大学卒業後に和歌山に戻ってプレイ続けたいと思っている選手も多いのです。そのような熱意がある選手を独立リーグとして受け入れプロを目指ざしてもらうのは夢のあることです。
片桐
野球王国といわれるだけあって野球への関心は高いと思います。いくつかの意見も寄せられています。一例として、子どもが青森県の光星学園で甲子園を目指している方の意見です。
中学時代にスカウトされたので行ったものですが、和歌山市で黒潮リーグが発足すれば帰ってきて欲しいと思っています。和歌山市で高校野球球児を受け入れる環境がないので早期の実現を期待しています。実業団チームもないのですから、今のままではリターンは難しいのです。光星学園のある八戸市や東北福祉大学のある仙台市は、スポーツをする環境が整っていますし地域からの支援体制もあります。八戸大学からは二年連続プロ野球選手がドラフトされていますし、東北福祉大学からは毎年のように有力プロ選手が登場しています。和歌山市にもそのような環境が欲しいですとあります。
私も和歌山市で仕事の後の時間を楽しむ手段について思うことがあります。それはアフターファイブの時間を、飲み会などの娯楽だけに使用するのは勿体ないということです。仕事帰りにコンサートを楽しめる、絵画鑑賞が出来る、プロスポーツを見に行くなどの生活の場としての選択肢が欲しいと願っています。残念ながら大人が楽しめる地域とはなっていないのです。
木村
そのためにも独立リーグという器で選手を迎え入れることに意味があります。唯一の社会人リーグに参画している箕島球友会とも連携をとりながら、和歌山における野球の可能性を捜してみたいものです。
片桐
夢を持つことで実現の一歩を踏み出すことになります。少し不利な状況にあっても、次のポイントは絶対に取るという気持ちを持つことですよね。気持ちを持つことで状況は変化します。
木村
投手として一番いやなのは点差が開いた時の登板です。それは相手がリラックスしているので打たれる確率が高くなるからです。大事な1点の攻防となる緊張した場面では、相手も余分な力が入りますから打ち損じの確率は高まります。人はリラックスした中で最も実力が発揮できます。和歌山の状況は大きく遅れているので、リラックスした状況と類似していますから実力を発揮できるのではないですかね。
片桐
和歌山市においては、経済の活性化や地域再生の必要性、まちに活気を取り戻すことなど課題は沢山ありますか、全てに通じることは和歌山にとって元気が出るための何かきっかけが必要です。初めからあきらめていては何も出来ません。和歌山市には夢が最も必要です。独立リーグが実現すれば、プロ野球観戦をして休日を楽しむ、地元の選手を応援する、プロ選手による野球教室開催など、和歌山市になかった新しい環境が提供されることにもなります。デメリットもありますが、そのリスクを恐れていては何事も実現しません。
現状維持で良いと考える思考が、やがて冒険を避けるようになります。和歌山全体にそのカルチャーが定着しているのは恐ろしいことです。駄目だと言うのは容易いことですが、もうその思考から脱却する時期に来ていますよね。