対談コーナー
重岡 博さん
人間研究・再生・予防医学研究家
重岡さんは、平成14年3月から和歌山市に在住し、それ以降和歌山市を拠点に活動を行っています。36年の長きに亘って東京にある日本指圧学校に所属され、浪越徳治郎先生(故人)の高弟として東京で活躍されていました。
かつてはメジャーリーガーのジョー・ディマジオが来日の際、指圧体験をしてもらったのですが、ディマジオ氏はその回復効果を絶賛し、それ以降メジャーリーグにも「Shiatsu」が広まり、多くのメジャーリーガーが指圧のトレーナーと契約するに至っています。日本指圧学校からは何人もメジャーリーグに渡っています。
対談日:2005年1月14日
片桐
重岡さんはあの浪越師匠に先生され指圧を習得していますが、指圧の効果とはどのようなものですか。
重岡
指圧はレントゲンのようなものです。私の指は体の各部位を知り抜いていますから、触れるだけで少しのズレでも発見出来ますし治癒に導きます。元来、人間の体は傷つけられても自然に回復する機能が備わっています。指圧はその人間が持っている機能を蘇らせる働きがあります。悪いところを攻撃してやっつけるのではなくて、自然治癒力を高めるためのお手伝いをしているのです。
片桐
背骨の1mmのズレでも分かると言いますからね。誰に対しても効果的なのですか。成果を挙げた事例を紹介して下さい。
重岡
健康な人でも怪我をした人でも、心を病んでいる人でも大丈夫です。心身は結びついていますから、体を良くすれば病んだ心も回復します。怪我の場合、程度にもよりますが、大きな怪我でも三ヶ月あれば回復させることが可能です。突き指程度なら一日で十分です。傷めた箇所をゆっくりと押すことで回復に向かいます。怪我を治すのにも根本から治さないと完治したとは言えません。例えば内臓が弱いとスタミナは無くなります。走りこんでもトレーニングをしても内蔵を強くしないとスタミナは決してつかないのです。内臓を強くするための手伝いをするのが指圧と言うことです。
成果を挙げた事例としては少し古いのですが、相撲の元横綱琴桜関がまだ関脇の頃の話です。腰を痛めて医者からはもう直らないと見離されました。指圧を施すことで腰痛は完治、その後大関、横綱へと登りつめました。ボクシングの元ライト級世界王者の柴田国明選手も指圧により再起を図りました。
事例は他にいくつでもあります。初期のヘルニアなら三日で治したことがありますし、重労働で足が曲がってしまった人の足を三ヶ月で元に戻したこともあります。
片桐
メンタル部分でも効果があるのですね。社会が病んでいると言われている中、精神状態が不安定な人は増えています。個人にとっても不幸ですし社会にとっても損失です。社会にとっては、能力を活かせないことに加えて経済的損失も大きいですよね。
重岡
予防医学の観点からすると、心身とも健全であれば医療費をかなり抑えられると思います。病気になってから治療に入ると費用はかかりますが、予防しておけばその費用は不要となりますから、健康保険組合の負担額も少なくて済みます。東洋医学を治療の柱として西洋医学で補完するしくみが出来れば医療費は半額以下に抑えられると思います。アメリカの医療費は10兆円程度ありますが、これを抑えるために東洋医学を取り入れる動きがあります。
人間は明るく楽しく生きるのが一番です。苦しみながら生きるのでは人生の意味がなくなります。
片桐
指圧は人間の体の機能を高める役割があるのなら予防的観点からも有効です。ドッグセラピーや音楽療法などと組み合わせることで効果は高まるように思いますが。
重岡
指圧も予防医学の一部です。ドッグセラピーや音楽療法、気孔法、発声訓練などと組み合わせることで効果は高まります。ひとつだけで治癒するのではなく、人間の体を回復させ健康にすることをメインとして考えると、人間が決めたに過ぎない領域内で成果をあげようとするのではなく、分野の垣根を越えて取り入れたら良いと思います。西洋医学でも東洋医学でもその人に合えば良いのです。要は健康でいるためには何を行えば良いのかです。その症状や体質に合ったものを適応させたら良いのです。
片桐
東洋的なものを信じるかどうかによって成果も変わりそうですね。指圧の効果を信じる人は早く回復するような気がします。
重岡
親孝行と素直さが、人が伸びる要素です。人格形成につながるものは全てつながっています。健全な考え方の持ち主は体も健康ですし、体の一部分や精神を痛めても回復力は強いのです。素直でない人の治癒力は遅いですし、人間としての成長度合いも遅くなります。
人格者の周囲には自然と人格者は集まります。だから余計にその集団は成長していきます。また人格者の子どもも優れた人格を身につけられます。人格を磨かないとその逆になります。
片桐
性格や行動形態が違っても同じ価値観を持つ人は自然に集まりますね。重岡さんの素晴らしいところは、単に体を治癒させるための道具として指圧を活用するのではなく、人の心にまで踏み込んで健全化させようと考えている点にあります。一流の人に接して来た経験から、心を高めることが体の治癒能力を高めることになるとお考えですよね。
重岡
一流の人間と二流の人間との違いは、怪我をしても怪我に対する取り組み方が違うことです。一流の人間は怪我に対して自分が出来ることを精一杯取り組みます。怪我に対して向かっていきますし、私に対してもぶつかって来ます。怪我を治して再挑戦するんだという意気込みがありますから、再生効果はおのずと違ってきます。
このように、体を治癒させる、或いは体を再生させるためには心が重要です。希望を持っているから直すために努力をしますし、痛くても我慢をし、熱心にトレーニングにも取り組みます。態度が違いますね。
片桐
逆風の時の態度で一流と二流違いが分かりますね。今ここにある課題に対して全力を尽くす姿勢を持てる人が一流の人だと言えます。どんな状況においても希望を持つことも大切です。
重岡
私が不思議に思うのは、働いているのにそこに希望を持っていない人が多いことです。希望をもたないと生き甲斐は生まれませんし、そんな状況で生きていて良かったとは思わないでしょう。私達が生きているのは、苦しい顔や難しい顔をするためではありません。生きていることが幸せだと思うことが生きている意味です。健康を維持し希望を持って何かに取り組むことが生きることの意味です。他に大切なものがありますか。
だから一流の人間は健康維持に努めていますし、逆風でも常に希望見失わないで持っています。
片桐
生きる意味はそう深くない訳です。希望を見つけてそれに向かって努力を行う、前に向いて早く歩く程風は向かってきますが、それに挫けないことで希望は叶うのです。その過程においては心身とも健全であり続ける訳です。ただ何時でも全力という訳にはいかないため隙間が出来ます。そこで体の抵抗力が落ちた場合、再生能力を高めるために指圧として手段がある、これを上手く活用することで不調期を短期間に抑えることができ、再び希望向かって歩き始められるのです。
重岡
私の夢は世界中から暗い顔を無くしたいのです。一人でも健康で明るい顔が増えたら、それだけで世界は変わります。大きな声で挨拶を交わす、大きなことで意見交換していれば、社会的ひきこもりや不登校も無くなります。
和歌山県には自然と歴史的文化があります。2004年には、高野・熊野が世界遺産に登録されました。いやし、よみがえりの地としての素養がある地域です。和歌山から人間再生を謳い、予防医学を発信することで世界を変えることが出来ます。和歌山から世界を変える、素晴らしい取り組みになります。
片桐
和歌山の特長が欲しいと思っていました。人間再生の地としての和歌山は良いですね。
人間の心と体を再生することで、人が本来持っている機能が発揮され元気になります。元気な人同士が交流する世界なら平和が近づいてきます。
重岡
私は障害の持つ子どもや不登校の子どもたちに指圧の技術を教えたいと願っています。手に職を持つことで生きるための手段を持つことが出来るのです。指圧を施すことで人の役に立てる経験は自信を持たせることにつながります。社会で必要とされていることが自覚出来たらひきこもることは無くなります。
片桐
人間を再生させるだけではなく、人生の後輩にも職を身につけてもらい経済的自立と社会でお役に立てる喜びを与えようと考えていることは素晴らしいものです。社会的ひきこもりなどの社会問題解決のためにも重岡さんの知識と経験を活かしてください。人に喜んでもらえる仕事が出来る幸せを多くの人に感じて欲しいものです。効率と合理的至上主義では希望が持てません。
重岡
子ども達に技術と人間としての心を伝えることが、先輩として残されている最大の仕事です。少なくても生きるための希望を与えたいと思っています。
それに加えて才能のあるスポーツ選手の再生にも力を入れたいと思っています。巨人軍の小久保選手の膝の状態を心配しています。完治していたら良いのですが。スポーツ選手は私達に夢を与えてくれますから、体を大切にして長く活躍して欲しいのです。
片桐
熊野はよみがえりの地、再生の地ですから、世界遺産をきっかけに予防医学的観点からの活動は時期を得たものです。見ることが出来ない精神文化を健全にすることで、社会は健全に向かうと思います。和歌山を拠点としての活動を期待しています。
重岡
人間は良いことをしても、つらいだとか苦しいだとか思うと心が病んできます。つらいと思うと天は喜んでくれません。人間が本心で正しいと思ったことを行えば、人間が後からつけるような理屈は関係なく良い見返りが現れます。そのためには素直さが一番です。
片桐まとめ
東洋医学のひとつである指圧は浪越徳治郎さんが生みと育ての親です。浪越さんの母親がリウマチで苦しむため、子どもながらに母親の体の痛みをほぐすために、さすったりもんだりしていました。そうしている内に指で圧すと痛みが抑えられることが出来たため、浪越さんは指圧と命名し、病気に苦しむ人のために役立てました。その後1940年に日本指圧専門学校を設立していますが、これが日本唯一、指圧を学べる学校です。
浪越さんが指圧で病気の人を治しているのを知り福岡から状況、学校が設立する前に弟子入りしたのが重岡さんです。その技術を身につけて病気で苦しんでいる人を助けたいという気持ちからです。その後日本指圧専門学校で学び、首都圏で指圧を施していました。

ところが60歳を機に、心機一転それまで住んだことのない和歌山市に移転しました。福岡生まれで東京や千葉で仕事をしていたのに和歌山市にやってきたのです。顧客のある地域にいれば技術があるため安定した生活を約束されていたのですが、知っている人が少ない和歌山市で人生の仕上げをしたいと思ってやって来たのです。
和歌山市はよみがえりの地であることから、指圧によりここに住む人に健全な心身を与えたいと願ってのものでした。人間研究、人間再生を目指して予防医学を普及させるために活動しています。

高野・熊野が世界文化遺産になって頃に和歌山で活動を開始したことも何かの因果がありそうです。熊野は身分や地位、貴賎や性別は全く関係なく人々を受け入れてきた懐の深い地です。単なる観光地として観光客を集客するのではなく、歴史的事実に基づく精神文化を伝え感じ取ってもらうことで奥深さを理解してもらうことに価値があります。熊野の観光ブームが一過性に終わるのか、リピート性を持つことが出来るのかは、方向性をどこに定めるかで明暗を分けます。今年の取り組みが重要ですが、予防医学を取り入れることでよみがえりの地としての価値を持たせることも可能です。

指圧とは、人間の本来持っている回復機能を最大限に活かそうとするものです。人間には、傷つけられても病気になっても自然に回復する機能が備わっていますから、悪いところを施術などで切り取るのではなくて、自然治癒力を高めるためのお手伝いをするものです。
心身は結びついていますから、体を良くすれば病んだ心も回復しるのです。怪我の場合、程度にもよりますが、大きな怪我でも三ヶ月あれば回復させることが可能だと言いますから驚きです。

精神状態も良くしますので、社会的ひきこもりや不登校から脱却させるためにも効果があると言いますから私達が思っている以上に応用範囲は広いのです。
和歌山と予防医療は、自然環境や歴史的背景からも相性の良さを感じました。