コラム
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2012/2/15
978    未来の基

難病の一種ですが網膜色素変性症という病気があります。症状に個人差があり正確に記すことはできませんが、徐々に視野が狭くなっていきます。見るものの中心部だけが見えるような感じだそうです。視野の検査をすると、ほとんど見えないので視野がないような状態にあるのかも知れません。また眩しさがあり、白色を見ると眩しくてそのものが見えないそうです。白色を基調とした室内、ホワイトボードなどは眩しくて見えない状態です。

そして年月と共に視野が狭まっていき、失明の恐れもあるということです。

そんな病気と闘いながら、あん摩マッサージの国家資格を取得するために学んでいる方がいます。和歌山県立盲学校の生徒ですが、決して諦めない、そして明るくて前向きな姿勢に好感が持てます。盲学校で資格をとり卒業をしたらヘルスキーパーやスポーツトレーナーなどの分野で仕事をしたいという夢を持っています。あん摩マッサージの資格を取得した人は、やがて開業してその分野で活躍する人が多いのですが、新しい分野に挑戦する気概を持っています。

視野が狭まっていく恐怖とは一体どのようなものか想像できませんが、決して明るく捉えられる事象ではありません。不安と恐怖との闘いに打ち勝つ精神力は無限大のものが必要で、常に湧き出るような強い精神力が必要だと思います。

専門部2年生のこの方からあん摩マッサージを受けました。しっかりとした力強さと優しさを感じました。会話を交わしながらのあん摩マッサージの時間は天使と話しているような感じがしました。

「指に力を入れていると疲れるでしょう」。「いいえ。体重を乗せて指圧しているので疲れませんよ」。

「一日何人ものお客さんが来ると大変ですよね」。「いいえ。お客さんに喜んでもらえることが楽しいのです。まだ生徒の身なのにお客さんと接することができるのは嬉しいことです」。

「とても上手ですね。お客さんは喜んでくれるでしょう」。「あと1年学ぶことがありますからまだまだです」。

「素敵な体験でした。ありがとう」。「時間を取って来ていただけてありがとうございました。是非、この次も来て下さいね。待っています」。

こんな会話を交わしながらの1時間でした。全ての会話の中に前向きな姿勢が表現されています。視野が狭まる恐怖と闘いながら、しっかりと自分の未来を見据えています。自分の生きる道を描いている未来があることは生きるために必要なことですが、その自分の未来の姿を持ち合わせていない人も多いのです。日々の恐怖と闘いながら、それに打ち勝ち自分の未来を捉えている。そんな姿に接することができたことは幸せであり、自分の心の力が向上しました。人は今の自分の置かれた環境に不満を感じ、不平を言うことがあります。しかしそんな不満などは大きな見えない恐怖と闘っている人からすれば小さなことです。未来を見つめていれば、今は未来の基ですから希望の種を蒔く時期だと分かります。