コラム
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2012/2/13
976    全力投球

広島カープの故津田恒実投手が平成24年1月13日に野球殿堂入りを果たしました。とても懐かしい名前です。余り津田投手の試合は見たことはないのですが、炎のストッパーと呼ばれていたこと、32歳の若さで脳腫瘍のためこの世を去ったことは知っています。

救援投手として大活躍した時期は数年ですが、その生涯を成績以上に記憶に残しておきたい選手です。実際の姿も知りませんしファンでもなかったのですが、今回の野球殿堂入りは、それに値する選手だと後世に残る評価を受けたことは本当に素晴らしいことです。もしかしたら、野球だけではなく津田投手の太く短く炎のような生き様が評価されたように思います。

人は完投を目指して人生を生きています。リリーフの投手は短いイニングを全力で投げ込みます。リリーフエースは押さえて当たり前、打たれたら負けの場面で登板しますから、常に全力投球です。社会で働いている場合、短いイニングに全力投球する体験は余りありません。短期間に輝くよりも、長期間安定した結果を残し会社内で出世する方が評価されるからです。ですから自分が体験できないような、太く短く炎のような生き方に感動するのです。活躍した期間は短く、現役時代の姿を見ていない私の記憶にも残る不思議な投手が津田選手です。短くても輝いた人生は、きっと誰かの心に残るものです。そんな生き方をした津田投手の記事に背中を押されるようです。

同時に、もう一人のプロ野球選手を思い出しました。元福岡ダイエーホークスの藤井将雄投手です。この選手の活躍した期間も数年だけです。試合で投げている姿も余り見ていないのですが、何故か心に残る選手です。藤井投手も肺癌のため31歳の若さで亡くなっています。

今も藤井選手の最後の日記は感動を与えてくれます。野球の世界だけではなくて、社会で生きる私達が周囲の皆さんに感謝をすべきことの大切さを伝えてくれますし、感謝の気持ちを持つことで周囲の皆さんから仕事をさせてもらっていることを再認識させてくれます。そして自分が去った後でも自分のいた場所を応援して欲しいという純粋な気持ちに感動させられます。人として持ち合わせたい気持ちが次の文章の中に詰まっています。

「今の自分があるのは、過去から現在において出会ったすべての人のおかげだと思います。その中の誰一人がかけても、今のこの幸せな自分は存在しませんでした。だから、すべての人に感謝しています。
 プロ野球選手はまわりの人々に夢と希望を与える職業だという人がいます。でも、ボクは逆です。たくさんの人から夢や希望、エネルギーをもらってきました。そのことがうれしかったんです。  6年前の入団発表のとき、王監督を胴上げしたいと抱負を述べました。その願いも去年のリーグ優勝と日本一で無事に達成できました。そして、今年はチーム全員で頑張ってつかんだV2。すばらしい野球人生だったと胸を張れます。
 この病気には自分自身、すごく勉強させてもらいました。孤独や優しさ、思いやり、不安。人間の本当の感情に触れることができました。今までのボクは上っ面のとこしか見えてなかったんだなとも思いました。すべては、この病気が教えてくれたことです。
 この一年間、ゆっくりと休ませてもらいました。あらためて野球を頑張ろうという気持ちにさせてくれた中内正オーナー代行はじめ球団の方々、王監督、チームメートの皆、感謝の気持ちは忘れません。そして、生きる希望を与えてくださったファンの皆様、ありがとうございました。これからもダイエーホークスを応援してください。」

津田選手の野球殿堂入りの記事を読んで、藤井投手のことを思い出しました。二人に共通していることは、活躍した期間が短かったこと。先発ではなくてリリーフという短いイニングに全力投球した選手であったこと。リリーフでタイトルを取ったのはわずか1回だけだったこと。そしてファンに感動を与えながら若くしてこの世を去ったけれど記憶に残り続けていることです。

短い人生を全力で駆け抜けた二人の投手の感動が蘇えりました。人は自分が経験できないことを達成した人の生き方に感動するものです。短いけれども全力投球の人生。憧れの気持ちを持ちます。