コラム
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2012/1/13
957    料理人

料理人の仕事は気配りにあります。お客さんにおいしい料理を食べてもらうことに全力を尽くしますが、調理や味だけではないところに真髄があります。一流の料理人は、どの部屋にどのお客さんが来ているのかを把握しています。そして「あのお客さんだったら薄口の味付けだな」だとか、「宴会が続いているに違いないので、油を使わない料理を提供しよう」など思って料理をつくります。

時間配分もおいしい料理に欠かせない要素です。調理場にいてもお客さんの食べるペースを考えて、次の一品を出すタイミングを図っています。調理場が一階、お客さんが二階の客室にいたとしても、食べる速度や会話のタイミングを把握しているのです。顔を合わさなくてもお客さんと調理人が信頼関係で結ばれていること。これが最大のおもてなしのです。お客さんはそのお店の調理人を信頼していますから、大切なお客さんと一緒に食べに来るのです。そしてお客さん同士の会話を妨げないこと、おいしさを堪能できる調理方法で料理を提供してくれるのです。

調理で気配りをしているのは、良い材料を選ぶことと、出汁を取るのに時間を掛けることだそうです。鰹節から出汁を取るにしても、鰹を乾燥させて削ることから始まり、どれだけの時間を掛けると良い出汁がでるのかを計算しています。この出汁を作り出す時間の長さと密度が一流の料理かどうかを分けるのです。

良い材料を使うこと、出汁に十分な時間を取ること、それが一流の調理人の心構えです。そして一流の調理人に厨房に入ってもらうためには、お店やホテルも一流である必要があります。一流の職場に一流の人材が集まり、三流の場所には三流の人材が集まります。おいしい料理を食べようと思ったら、一流の場所に行く必要があります。但し、予算に限りかありますから、ホテルの場合は宿泊費用が高くてもそこに泊まり、料理は予算内のものを注文することです。そのホテルの中の比較的安い料理でも使用する出汁は同じですから、おいしい料理を堪能できます。違うのは素材だけなので一流の場所で食事をすれば安くても良いものが食べられます。

お店でも同じで、お昼の安価なものを食べると良いのです。一流の料理を食べていると味が分かってくるのです。

一流のものを知るためには一流の味を食べなければならないのです。一流のお店の接客やサービスなどを体験しなければならないのです。人が一流の物を身に付けるためには、その体験をしなければならないのです。

長く修行を重ねた調理人の料理、仕込みに時間をかけた料理は、やはり一流の味わいがあります。実際に料理をいただきながら、一流の方から解説してもらい学ばせてもらいました。10代の時から料理の修行を行い、それから50年は経過しています。その期間の料理経験から得ているものは、他の分野でも通用するものです。

一流を知るには一流を食すること。一流の人物とつきあうためには自分も一流の人物にから学ぶことです。マナー、ふるまい、会話。老舗の料理屋の食事と接客から学べます。