コラム
コラム
2011/11/9
919    平均値

ある会社の営業部門管理職が、和歌山県田辺市にある支店に業務指導に行った時の話です。田辺支店では、お客さんを全体で括り総括したり、平均値で傾向を見ると何が特徴か分からなかったため、売り上げが低下している要因は地域経済が低迷しているからだと結論がありました。

そこで指導に行った人が、比較的大口のお客さんの事情を個別にヒアリングしていきました。データを押さえながら、そのお客さんが期待しているものや事業計画を確認していくと、お客さんが望んでいることや投資計画や投資時期など、全てのお客さんに違いがあり、それに伴ってアプローチの方法も違うことが判明しました。お客さまの管理システムによって、平均値を打ち出しそこに対して営業計画を策定していたことから、狙いがずれていたことが分かりました。つまり平均値に焦点を当てて営業を行っても効果は低いのです。

平成23年10月18日の朝日新聞朝刊に平均値が必ずしも狙うものではないことを教えてくれる記事が掲載されていました。社会面から引用します。

「夏の甲子園決勝、興南対東海大相模の一球速報があった。 興南・島袋洋奨(ようすけ)投手、東海大相模・一二三(ひふみ)慎太投手の甲子園での全投球データを丸一日かけてスタッフと入力した。球速を横軸、球数を縦軸に、ヒストグラム(分布グラフ)を作ると、二つの「山」がくっきり現れた。一二三投手の平均球速は131キロだが、その球速の球は実は少なく、グラフでは「谷」になる。「山」は117キロと137キロ前後にできた。前者は主に変化球、後者は直球だ。「平均」は必ずしも「最多」ではない。中学数学の「分布と平均」について問う、かっこうのネタだ。「一二三投手を打つために、平均球速の131キロに的を絞って練習することは有効か」。このアイデアに賭けることにした。」という記事です。

社会でも同じことが言えます。平均値に狙いを定めて営業を行っても、課題の平均を導いてそこに向けて対策を講じても成果がでないことがあります。それは平均値がその課題や事象を代表しているものではないからです。

「一二三投手の平均球速は131キロだが、その球速の球は実は少なく」とあるように、平均値のボールは試合中、数球あるだけなのです。この場合、131キロの直球を打つ練習をしても打ち崩せないことは明らかです。137キロ前後の直球を狙うのか、117キロ前後の変化球に絞るのか、しかも投手は1キロ単位で速度を変えた投球をしますから、対応は簡単ではありません。

仕事も同じで、課題となっている大きな山はいくつかあり、その課題の山の前後に小さく刻まれた課題が潜んでいるのです。それらに対して対策を打つべきですから、いくつかの対応策を備えておく必要があるのです。業界の平均値や地域の平均値に対して対策を実施しても狙った成果を挙げられません。平均値は存在している課題を代表するものではありませんし、平均値を攻略しても大きな山は崩せないことを知っておきたいものです。