コラム
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2011/10/5
899    限界点

マラソンのコーチから走ることを学びましたが、その中には人生に通じるものがたくさんありました。スポーツから学べる人生があります。

最後の一周、または勝負どころで粘れないのはどうしてでしょうか。

厳しい練習を続けてきたランナーが限界の直前まできた時、つまり極限の状態で抜け出すことができるランナーと落ちていくランナーに分かれます。どちらのランナーも毎日何十キロも走る練習を続けているのですが、その違いはひとつです。限界に達した時に、その限界を跳ね返せる精神力があるかどうかの違いです。限界がきて「もう駄目だ」と思うと、そこから脱落していきます。しかし「ここからが勝負だ」と思うと抜け出すことが可能です。

その精神力の違いはどこから来ているのでしょうか。ここが勝負のおもしろいところで、速いランナーと強いランナーが違うことが分かります。強いランナーは小さなレースで優勝してきています。オリンピッククラスであっても、市の大会、県大会、近畿大会などの大会を優勝で制してきた経験があることが多いのです。どんな大会でも必ず優勝するという精神力を持っていますし、優勝体験が限界を突き破る原動力になっているのです。どこまで辛抱したら相手が落ちていくかが分かるのです。

それに対して優秀経験のない速いランナーがいます。国際大会や国内大会、そして県大会など、どんな大会でもタイムは速いのですが、優勝を逃してきたランナーは、最後の勝負どころの粘りがないのです。日本記録や県大会記録を持っていても、優勝できるとは限らないのは限界を超える粘りがないのです。

一位と二位の差は、限界を超える精神力があるかどうかの違いなのです。楽に走れている間は勝負時ではないのです。「もう駄目だ」。「もう走れない」と思った時からが勝負なのです。諦めるか、諦めないかは体力や技術の問題ではありません。精神力が強いことが勝負に勝つために必要なことです。

現役選手が引退を決意するのはこの強い精神力がなくなった時だと聞きました。勝負どころで、「もういいか」、「もう駄目だ」と思うようになると勝つことはできません。それを感じた時、選手は引退を決意するそうです。体力ではなくて気力の限界を感じた時が競技から去る時です。

ですから練習においては、限界を感じるところまで走り、そこから一歩を乗り越えられるトレーニングを行います。体力の向上もそうですが、もう駄目だと思った瞬間かに粘れる精神力を鍛えるのです。ランニングマシーンの場合、負荷を掛けていき、限界を感じても負荷を掛けます。限界を超えると速度についていけなくなりますから、後ろに飛ばされます。勿論、意識をなくしても身体が飛ばないようにワイヤーで身体を吊り下げる防御をしているのですが、その限界点を気持ちと身体で覚えるのです。

限界点の先にある限界点を感じられたら、自分の限界点はその先に伸びます。仕事でも同じです。自分で限界点をつくることで限界を感じるのです。限界は自分が今いるこの場所にないことを知るためには、限界点を打ち破る経験が必要です。「もう駄目だ」と思ったところが限界点ではなくて、まだその先まで辿り着けることを精神と身体で覚えたいものです。そのためには仕事に負荷を掛けて、一度は限界点を感じること。一度経験したその次が勝負です。そこで諦めるのか、そこから粘れるのか。それが仕事の勝負を分けることになりますし、人生を分けることになります。