コラム
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2011/1/5
855  誇りのある仕事

ビルを清掃してくれている皆さんに仕事を終えた後の時間をいただき、意見交換をさせていただきました。

ビル清掃の仕事は重労働で大変ご苦労をされていることは、日頃から拝見して分かっていますが、直接話をさせていただき感謝の気持ちが耐えませんでした。私の新人の頃は、新人が少し早い目に職場に出勤して、机を拭いたり灰皿を片付けたりしていました。それが職場の新人の役割の一つであり、職場をきれいにすることでコミュニケーションを図れる大切な仕事でした。恐らく先輩は、そんな新人を温かく見守ってくれていた筈です。

ところが分業化が進み、机の清掃や職場内のゴミ掃除の役割は外部委託の形を取るように変化しました。事務所の清掃というサービス業の分野入り、企業は清掃を仕事として専門の事業者に委託をするようになり、その会社の従業員から職場の清掃の仕事はなくなりました。その仕事がなくなることは、意識からも消えてしまうことを意味しています。自分達でやらなくても良い仕事は仕事だと思わなくなりますから、意識から抜け落ちます。 

その結果、心を磨く意味で大切なことである職場を自分達できれいに保つことや、ゴミの処理は委託をしている事業者の人の仕事なので関係ないと思うようになります。事務所内の清掃は自分達の職場環境を保つためのコミュニケーションから、外見の通り清掃会社の仕事へと変化していったのです。

現在は清掃会社の皆さん、特に女性が多いのですが、私たちに代わって清掃をしてくれています。確かに仕事を委託しているのですが、そこには感謝の気持ちが込められている必要があります。朝6時に出勤して、各職場を清掃してくれていることを私は知っています。多くの職員さんが職場の席に着く頃には、清掃会社の皆さんの姿は見られなくなっています。気付かれないように職場の環境を保ってくれるという結果を出しているのがプロの仕事です。

午前8時頃になるとトイレで、午前9時頃になると事務所の外側で、皆さんと会うことができます。水が冷たい時期においても、トイレ掃除をしてくれているからです。冬の寒い時間でも、外の落ち葉拾いをしてくれているからです。皆さんの支えが会って会社の品格が保たれています。自分達がすべきことを陰で支えてくれていることに感謝するばかりです。

ところが清掃会社の仕事は重労働で、そして賃金は低く抑えられています。比較的年齢を重ねられた女性にとって身体への負担は大きなものがあります。それでも私たちに代わってプロとしての仕事をしてくれているのです。会社内で朝会ったら、「おはようございます」、そして「いつもありがとうございます」などの言葉が自然に出てくるのが当たり前だと思います。

清掃会社で働く女性の皆さんから一番嬉しいことを聞きました。それは、職場の皆さんから挨拶など、声を掛けてくれることだそうです。「おはようございます」、「きれいにしてくれてありがとう」の言葉が一番嬉しいことであり、次の仕事に向かう原動力になるのです。清掃の仕事を感謝とプロの仕事だと認めることで自然と挨拶の言葉が出てきます。

挨拶もしてくれないばかりか、こちらから挨拶をしても無視されることが、最も強い仕打ちなのです。清掃の仕事は身体への負担が多い仕事です。膝や足に負担が掛かります。

身体への負担に加えて、挨拶もしてくれないという精神への負担を負わせたくありません。感謝の気持ちを伝えることが精神を元気にさせ、身体への負担も軽減させてくれます。

今日懇談させてもらった皆さんの仕事はプロの仕事としての誇りが成果として現れています。きれいに保たれたトイレや職場を見るとそれが分かります。快適な環境で仕事をさせてもらえることに感謝をして、私たちが出来ることは、トイレや事務室をきれいに使わせていただくことです。

「清掃の仕事は最低の仕事だからといって、挨拶もしてくれないことは悲しいことです」という言葉に心が痛みました。そんなことはありません。言葉の通り清掃は清掃のプロの仕事です。誇りを持つべき仕事で、プロの仕事が分からないような人は、その分野のプロではないと思います。プロはプロを知っていると思うからです。