コラム
コラム
2010/12/6
849 奇蹟の榊

50年間も飲食店を経営してきたのがTさんです。過去、多くの経済界の人や政治家との交流があり、今はゆったりとした人生を過ごしています。そんなTさんと懇談する時間をいただきました。

そこで大切な日記を見せてもらいました。日記は毎日克明に書かれていて、今開いても、当時のことを即座に思い出すことができます。私が見ても、その日に何があったのか分るほどです。生きてきた道標が分る素晴らしい日記でした。そして見習いたいと思ったことは、毎月の代表的な出来事を表紙に抜き出して書いていることです。その年に発生した年間で12の代表的な出来事がひと目で分ります。思い出に残る、そして人生の節となる12の出来事を毎年積み上げています。勿論、今も毎日日記を残していますから、50年の間に起きた代表的な出来事は50年×12ヶ月の600もの出来事が表紙に記されているのです。一言でいう簡単ですが500の代表的な出来事を持っていることは大変なものです。

私たちの中で、人生を代表する500のイベントを人に話せる人は、殆どいないと思います。今日、私に示してくれた出来事だけでも、嬉しい話、耐えてきた話などが綴られています。全てが人生の宝物であり、それを糧として苦しい人生を歩いてきたことが分ります。

人はその日の出来事を一週間もすると忘れてしまいます。今生きたばかりの一ヶ月の出来事でも、思い出すことはできないものです。しかしそれは勿体ないことです。今生きたばかりの一ヶ月で得たものがないことを示しているからです。人は経験の中から学んでいきます。無意識に組みこまれる経験がありますが、書いておくことによって鮮明に蘇える経験があります。書いておかないと経験が次に活かされることはないのです。

50年も飲食店を経営できたのは、毎日続けてきた日記に残した自らの経験が積み重なり、失敗を乗り越えてきたからです。「小さな10の事業を行っても成功するのは4程度です。でも小さな4を積み重ねていくことが、やがて大きなことにつながります。そして経験に学び同じ失敗を続けないことが大切です」と話してくれました。

もう働くことをしないで不労所得があるので困ることはありませんから、仕事はスローダウンさせています。それでも信頼できる人に対しての仕事は続けています。「信頼は財産ですから、信頼できる人との関係は一生続けて生きます。今は常時営業していませんが、そんな方からの依頼があれば、いつでもプライベート空間を提供したおもてなしを続けます」と抱負を述べてくれました。

和歌山市内に隠れ家的で素敵な飲食店が存在しています。昭和の香りが残る店内には、今までの人生が感じられます。今までの人生とは、今まで出会った人たちかが築いてきたものです。人生の交差点のような空間だから輝いているのです。

2007年の日記には苦しい時のことが綴られていました。1年と半年に及ぶ闘病生活のことです。もう歩けないと思って治療を続けてきた結果、今では元気にどこへでも歩いていけるように回復しています。これも日記に回復することを願った結果です。

そしてもう一つ信じることの奇蹟がありました。自宅の神棚に供えている榊のことです。一年間一度も変えないでいるのです。青く茂った榊は枯れることなく一年間新しい芽を吹き出しているのです。翌年、いつもお参りしている荒神様に一年間お供えした榊をお返しに行って、新しい榊をいただくのですが、どちらが古い榊なのか分らないそうです。

毎日、お祈りをしている奇蹟が榊を青く保っているのです。50年間経営者として信じる力を宿してきたようです。その信じる力が榊にも宿っているような気がします。

そんなTさんから「あなたはこれからのこの先を背負う人です」と言われて、新たな力が宿りました。