コラム
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2010/4/1
816 準備
「プロの人でも本番前は十分な準備をしています」。プロの芸術家の話です。その道のプロであっても、本番当日を迎える準備として専門書を何十冊も読み返したり、自らの体験を言葉に置き換える作業をしているのです。ある芸術家は、講演会の前の日には10冊程度の専門書を読み返すそうです。もう知識としては頭に入っている筈なのに、それでも予習しているのです。それは講演会に来てくれた人に伝えられる新しい何かを発見できるかも知れないからです。身体に染み込んで分かっていることであっても、入念な準備を怠らないのです。
プロでない人は、十分な準備をしないで本番当日に臨むことが度々あります。自分に自信があることは良いのですが、準備が不足すると十分な仕事の成果が得られることは稀なのです。準備をするかしないのか、それが仕事の差となって表れているようです。
ですから、分かり切った専門分野のことでも十分な準備を行って本番に臨むのがプロで、それをしない人はプロではないと言えそうです。
また、プロの仕事は自分が関わる部分のことだけを知って良いと考えてはいません。10のひとつの仕事を仕上げるためには複数の人がチームを構成することがあります。企画、広報、営業などの専門家が集まりますが、営業の人がその内の2の部分だけのことを知っているだけでは営業はできません。他社にその企画の営業をしようと思えば、目的、イベント内容、その企画が完成するまでの経緯など知っておく必要があるのです。出来上がった形だけを知っていても、他人に説明をすることはできません。ひとつの企画が完成する過程において、最初の企画書から大きく変化しています。しかし最初の企画書には完成形に変化していくまでのヒントが隠されています。
ですから途中からチームに参加したプロであっても、それまでの経緯を知らないと十分な仕事を遂行することができないのです。知らない人は、「プロなのだから説明しなくても分かるだろう」と思うことがありますが、それは逆で、プロだからこそ十分に準備をしていることが分かっていないのです。

プロが全てを知っておく理由は他にもあります。プロの仕事とは単に形通りに進行させることではないのです。そこにはホスピタリティ、つまりチームの仲間にもおもいやりの気持ちを込めることがプロの仕事です。結果を求めるだけではなくて、仲間が気持良く仕事をできる環境を作ることがプロなのです。
そのために一緒に食事をすることや、仕事以外でも信頼関係を築くことにも気を使っています。仕事を離れた会話がある関係を築くことが、結果の出せるチームに必要なことです。プロとは、成果を上げるためには、まず信頼関係を築くことが大切なことだと知っているのです。それは一人でできる部分を完璧にできたとしても、全体としては理想の結果にならないことを知っているからです。何もしていないようで、チーム全体の仕事をスムーズに進めさせているのがプロであることを知っておきたいものです。